「花菱と柳ちゃんがヘンな雲行きになってるんだって!」

「うっそー!?」

「『おまえと一緒にいられない』って言ったらしいぜ!」

「シュラバってヤツ?」

「もーダメね」

「ほんじゃあたしが今度花菱狙っちゃおっかなーっ」

「何、おまえあーゆーのシュミ!?」


教室のど真ん中、きゃははと楽しげな笑い声と共に聞こえてきた内容は今噂の2人のことについて。昼休み、は購買で購入したメロンパンを大きな口で齧りつき風子はそれを眺めながら雑談をしていた。あくまでの昼食が遅かっただけであり、風子は既に持参した弁当を平らげた後である。風子はに「悪ィ」と右手を小さく上げると席を立って大きな声で話す女子達に向かっていった。その時は風子の右手に前まではなかった奇妙なデザインのブレスレットの様な、よくわからない装飾品を目にする。


「風子ちゃんあーゆーの趣味なのかなー…」


メロンパンを頬張りながら女子達に先程の話を聞く風子に視線をやる。どうやら話が終わったらしく風子も丁度を見た。交じり合う視線、風子は「すぐ戻る!」とだけ告げて教室を飛び出していった。大方、花菱烈火の教室へ向かったのだろう。実を言うとは花菱烈火のことも佐古下柳のことも名前と容姿だけしか知らない。クラスも違うため関わりがないのだ。風子とは同じクラスで親しくなり、風子を心酔しつきまとう石島土門ですらは数度言葉を交わしたことしかない。それも内容は「風子は?」「屋上」といった風子絡みの二言ほどの会話と言えるのかすら危ういようなもの。


「風子ちゃんがライバル視する花菱烈火君に、その花菱烈火君が惚れてる佐古下柳ちゃん。今度見かけたら声でも掛けてみよっかなー」


遠巻きでした見たことはないがこの4人が揃っている時はとても騒がしく、楽しそうなのだ。あの輪の中に入りたいという気持ちはないのだが、やっぱり惹かれるものがある。「青春だなあ」なんて言葉を零せば一口サイズになってしまったメロンパンを全部口の中へと突っ込んだ。



















6時間目の授業が終わりHRが始まる前、土門が教室に来たと思えば風子をつれて何処かへと行ってしまった。それを見送り、は直に来るであろう担任を自分の席で帰る仕度をしながら待つ。うちのクラスは他のクラスに比べて終わるのが遅い。理由はと言うと担任がいつも教室に来るのが遅いからである。つまり、6時間目が担任の授業だった場合は吃驚するぐらいに早く終わるのだが。


「ん…?んんんんー?」


何気なくみた窓の外は既に下校する生徒達で溢れていてその中で一際目立つ男女の姿があった(の目には目立って見えた)色素の薄い長髪を後ろで1つに結んだ長身の男子、柔らかい長髪を風に靡かせながらその隣を歩く女子。を想いを寄せる水鏡と、烈火の姫である柳の姿だった。目の錯覚かと、何度も何度も瞬きをして目を擦っても2人の姿はそこにしっかりとある。強く力任せに机を叩くと同時に立ち上がれば思った以上の音が鳴り今やっと教室にやってきた担任やクラスメイト達は驚いた様子でを見た。は口元を引き攣らせながら鞄も持たず教室を飛び出していくと担任やクラスメイト達は唖然しつ黙ってを見送った。普段大人しくにこにこしたがこうした行動を起こすとは予想外だったのだ。すこし遅れてから担任が廊下のずっと向こうまで走り去っていってしまったの背中に向かって声を荒げて呼び止めるのだが聞こえているのか聞こえていないのか、は無視して走っていった。



















「ヘンな事フキ込まれてハイそーですかって!あんたってそんなスナオだっけ?死ねって言ったら死ぬ?今みたいにガンガンいく方がらしいぜ単純バカ!!一人で考えねーで柳のキモチも聞くんだよ!」

「男なら約束守れっ。ボケ!!」

「そっ…か…!ホントばっかみてぇオレ!!なーにボケてたんだべ!!人に言われてやめちまう程度の事だったら最初っからやらねェ方がマシだもんな!!!」


場所は屋上、烈火は土門と一通り暴れると2人して屋上の地面に寝転がっていた。その横では膝をつきけらけらと笑う風子の姿がある。ようやく烈火が目を覚まし、場の空気が和やかなものに変わったとき屋上の扉が勢いよく開かれた。


「だぁぁあああ!!こんちきしょぉおおーー!!」

!?」

「ダレ!?」

だ、風子のクラスメイト」


絶叫しながら屋上にやってきたに風子は心底驚いたように目を見開いて、烈火はというと見覚えのないの姿とその絶叫の声に驚いたのか心臓をバクバク言わせながら隣で同じく横たわる土門に問う。土門は然程驚いたような様子は見えず静かに烈火の問いに答えた。はその視界に烈火の姿を捉えるとまるで獲物を見つけた肉食獣のように目をギラリと光らせた。烈火の口元が引き攣る。


「花菱烈火ぁあああ!!」

「ごぶゥウ!!」


のドロップキックが見事に烈火の腹に決まった。烈火の上に跨りマウントポジションを取ると胸倉を引っ掴み上下にがくがくと揺さぶる。


「アンタがしっかり佐古下柳を見張ってないから佐古下柳が先輩とデートしちゃってんじゃん!どう責任とってくれんの!ん!?あたしの初恋!あたしの青春の1ページ!明日からあたしは何を楽しみに学校に来ればいいんだぁああーー!!」

「ストップ、烈火が死んじまう!」

「だって風子ちゃん!!」


ぐずぐずうるうると、はじんわり涙を浮かべながら肩に手を置き制止をかけた風子に振り返り際、烈火の胸倉を掴む手を放す。そして飛びつくように風子の腰に抱きつけば「失恋なんか嫌だぁああーー!!」なんて叫びながら大泣きするのだ。いきなりドロップキックを決められたと思えば胸倉を掴まれ上下に激しく揺さぶられ、挙句の果てに風子に泣きつくの姿を見て、烈火は全く状況を読み込めないでいた。ごほん、と風子がわざとらしい咳をすればぐず、と言わせながらもは涙を止めて風子から少し離れる。


「大方、が大好きで大好きで仕方がないセンパイが柳と一緒に歩いてたってとこ?」

「何でだよぅ!佐古下柳は花菱烈火がいるじゃん!何で水鏡先輩!?何で何で何で意味わかんないんですけど!どういうことですか誰かがあたしに分かりやすく10文字以内で説明しろってのバカヤロー!!元はと言えば花菱烈火ぁああ!アンタの所為だ!!」

「俺の所為かよ!?」

「当たり前でしょ!!さっさと佐古下柳追っかけろっつの!そんで佐古下柳を奪還して!水鏡先輩が他の女と一緒にいるなんていやぁあああーー!!」


風子から離れ頭を両手で抱えて再び絶叫し出すに烈火は押されていた。さり気無く風子が烈火に「二人は遊園地に行ったらしーよっ」と告げれば烈火は遊園地へ全力で走っていた。それは柳の元へ早く行きたかったからか、それともに迫力負けしこの場から早く逃げ出したかったからかは烈火しか知らない。


「タコだなあいつ。単純の上にバカがつく…」

「タコとかバカとかの次元じゃないよ。超馬鹿だって、マヌケ、アホ、猿」

「いーじゃん!いつものあいつに戻ったんだからさ。それと、言いすぎ」

「あでっ!」


ようやく落ち着きを取り戻してきただが文句を吐く所を聞けばまだ怒りは収まっていない様子。風子はの額にデコピンをかますと、はその鋭い痛みに声を上げて額を押さえた。すると風子の表情は一転し、真剣なものへと変わる。じんわりと感じる額の痛みにも冷静になってきたのか黙って耳を傾けた。


「それよか…気になるんだよな。水鏡っての…何か…ヤバイ奴っぽいんだよね……女の勘ってヤツだけど…」

「えー?何で何で?かっこいいじゃん、神の子だよ!」

「そういう意味じゃなくて…まあいいや、あたしらもいこか土門!も行くか?」

「行く行く!れっつストーキング!何処までも尾行します!」

「ボク…大怪我しちゃってるんですけど…。つか、ストーキングに尾行って…」





















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