「あーん、もぉ!!!人多すぎィ!!こんじゃあ烈火みっかんないじゃんかあ!!」

「あ、あっちのジェットコースターおもしろそう…!」

「こら、遊びに来てるんじゃないんだからねー」

「そのくらいわかってるよ!」


やってきた遊園地。意外と家族連れの客も多く大変賑わった空間の中に達はいた。頭を掻きながら文句を垂らす風子に対し、は烈火達のことより目の前でびゅんびゅんと動くジェットコースターに釘付けだ。ぺしっと軽く風子がの頭を叩けば、つんっと不貞腐れる。その傍らで土門は何処か挙動不審だ。その緩んだ表情から風子と遊園地デートの光景を考えているのだと推測出来る。


「ねェ!なんかミラーハウスの方で大きな音しなかった?」

「あそこ今日閉まってたぜ。何か工事でもしてんじゃない?」


ミラーハウスの方を指差し椅子に座って雑談する1組のカップル。ちゃっかりとそれを聞いていた、風子、土門は静かに口角を吊り上げる。考えていることは3人とも同じだった。


「土門、

「ほいさぁ!」

「そんじゃミラーハウスまで競争!」

「あ!ちょ、速っ」


はそう挙手して提案すればミラーハウスに向かって一直線に駆け出した。遅れて風子、土門と駆け出すが一向にとの差が縮まる所かどんどん広がっていくばかり。土門は兎も角、風子は足が速い方に分類される。上には上がいるということか、本日は風子よりも足が速いことが判明した。がミラーハウスに着いたのはそれから間もなくのこと。入り口前で風子たちを待つ為に立ち止まれば中から聞こえる爆発音や鏡が割れる音。


「ここだね」

って足、速かったんだな…!」


汗を浮かべ、肩で息をする土門に対し風子はまだまだ余裕そうだ。もちろんも例外ではない。「行くよ!」と風子は先陣をきってミラーハウスに乗り込む。ここからもやはり駆け足。土門はげっそりとしつつ重い足を前へ前へと進めた。聞こえる爆音や破壊音に導かれるように進んでいけば大きく割れた鏡の前に座り込む水鏡とその前に立つ烈火の姿が見える。途端に土門は顔を明るくし、は一瞬にして真っ青になった。


「あっ、いたじゃん花菱!!どーやら決着ついたみてーだな。おほーい、ハナ……」

「まだだよ土門っ!まだケリはついてないよ」

「先輩が…水鏡先輩が頭から血…」

「はいはいはーい、ちゃんは大人しくお口チャックしてまちょうねー」

「んんんーーー!!んんんん゛ーーー!!」


烈火に向かって大声を出し声をかけようとした土門の顔面を肘で殴りつける風子。続いて真っ青になり叫びかけたの口を両手でしっかりと塞げばは両手両足をふんだんに使って抵抗をした。そして烈火はあろう事か、水鏡の長い長髪を手裏剣で肩より少し長いぐらいの長さまで切ったのだ。水鏡に心酔しきっているからすればこれ程の衝撃はなく、大人しく黙り込む。否、黙り込んだというより言葉を失ったに近い。その様子に気付いたのか風子はの口を覆っていた手を放した。


「…たとえ彼女も君といる事を望んだとしても。柳さんが何かに巻き込まれ死んだとする!!その時君は彼女に何をして償うつもりだ!!!」

「腹斬って自害する!!」


間近で見たことはなかったがいつも遠巻きで水鏡を見てきた。しかし今ここにいる水鏡は学校では見せないような真剣そのもので切羽詰ったようなそんな表情をしていた。それがどれだけ彼が佐古下柳という人物に想いを抱いているのかがよく分かる。言わずもなが、。人生最大の大失恋、決定的瞬間だった。そして可笑しそうに大きな声を上げて笑い出す水鏡は徐に立ち上がって近くに転がっていたナイフの様な、でもナイフではない何かを烈火に向かって突きつける。


「そんな必要はないさ。その時は僕が嬲り殺してあげるからね」

「上等だっ」


息の荒い烈火に対し、血を流しているものの平然と振舞う水鏡。水鏡は烈火の言葉を聞くとミラーハウスを後にするのだろう、烈火の横を通って出口へと向かって歩いていく。ふらりと傾いた烈火の体はそのまま耐えることなく床に倒れた。同時に烈火の名を呼び駆け寄る風子と土門だが、だけは駆け寄らずにそこに立ったままだった。理由はは烈火よりも水鏡の方を気にしていたからである。何だかんだ失恋をしたと言っても好きなものは好きなので仕方がない。間近で見るとますますかっこいいと思ってしまう。すると一瞬、ばっちりとと水鏡の視線が交じり合った。


「っ」

「………。」


は顔を真っ赤にし、水鏡は何も言わない。目が合ったのはほんの一瞬で水鏡が一つ角を曲がればすぐに見えなくってしまった。は大きく溜息を吐く。まだ心臓はドキドキと高鳴っていた。暫くこの心臓は静かになることはないだろう。


「しっかりしろオイ!!」

「!!やべえぞ、コイツ大量出血だっ。このままじゃマジで…死ぬぞ!!」

「どーゆーケンカしてたんだこいつらは!!風子!!とにかくかついでいくぞ!マッハで病院だ!!」

「待って!!」


風子と土門が烈火に声をかけるが反応が全くない。そこら中に散らばった血、烈火の身体に刻まれた無数の切り傷が烈火の容態の深刻さを確かに告げていた。烈火を担ごうと土門が腕を掴んだとき、ミラーハウスに響き渡る可愛らしい声。その方向へと視線を向ければ肩程まで短くなってしまった髪をした柳がいた。思わずその柳の変わり様に、風子、土門は目を点にする。


「私が治す!!」

「”治す”って…あんた医者か!?」

「どう治すのかは知らないけど重傷者を無理に動かすのは危険だよ。病院に担いで連れてくのは止めといた方がいい」

「烈火くんの血液型は!?」

「え…!?O型だったはずよ…」

「私と同じだ!!いちかばちかだけど…やってみる!!」


柳が治すと言い出し、驚きを隠せない土門と風子。その中では妙に冷めていて冷静に土門の案を否定する。風子の答えに柳は近くにあった大きな鏡の破片を手に取ると震えながらも勢いよくその腕に刃を当てて一気に引く。深く切った所為か辺りに血が飛び散り、そのマゾ的行為に、風子、土門の表情は一瞬にして引き攣ったものになった。烈火の腕の傷口と柳の切った腕の傷口を当て血を移す。見る見る内に消えていく烈火の身体に刻まれた傷に達は驚きを隠せない。


「すご…」

「見ろ、ケガが…」

「柳…おまえ」

「私には他人の体を治せる治癒能力があるの…。でも…それはケガを治してあげる事だけ。少なくなった血は戻せない…。だからこうして私の血を送るように治療すれば…って思ったの……」


烈火の腕に送られず漏れて落ちる水は次第に血の水溜りを作り始める。しかしその治療法は上手くいったようで烈火の血色は驚くほど良くなっていた。いい夢でも見ているのかとても幸せそうな表情をしている。


「すげーっ、文字どおり血を分けた仲ってヤツだい!!愛は強いねェ、ヤ・ナ・ギv」

「うんっ。私、烈火くん大好き!!」


あっさりと断言した柳に呆然と黙り込む風子と土門。この空気と自身の失言に気付いたのか柳は冷や汗を流す。次の瞬間、風子と土門は表情を一転させ声を上げた。


「ふぅーーふっ、ふっーーーふっ!!!」

「い、今のははずみ…」

「告白だぁっ、イエーイ!!」

「好きってその…それは友達のあのそのえーと……っ」

「イヤっ。目が本気と書いてマジだった!!二人に幸あれっ」

「ちょっと待ってよォォ」

「ほれ、からも何か言ってやれって!」


焦る柳を冷やかす風子と土門の隣で俯いたまま黙り込む

土門は笑顔でばしばしとの背中を叩くと、は黙り込んだまま柳の前までつかつかと歩いていけばのその様子に土門と風子は黙り込み、柳はと言うと何故か身構えている。どうやらが怒っていると思っているらしい。しかしそれが否定出来ぬほどには異様な程静かだった。そして強く柳の手を掴めば柳は声にならない小さな悲鳴を上げて肩を揺らす。はそこで初めて顔を上げてずいっと柳に顔を近づけて言った。


「花菱烈火のことが好きなんだね?他の男なんかどうでもいいくらいに?」

「え?え?」

「花菱烈火以外の男は興味ないんだね?」

「え、えーっと…」

「ないんだね?」

「は、はいぃいい!!」

「そっか!」


恐ろしい眼力に柳は半泣き状態だが、はというと欲しかった返事を貰え満足そうに笑った。普段学校の教室で見せるような緩い笑顔。そして柳の手を放すとルンルン気分と言わんばかりにスキップしてしまうようなステップでミラーハウスを出て行こうとすえる。唖然とする柳に風子がそっと「は水鏡の事が好きなんだ」と耳打ちすれば柳は納得したようで数度頷く。


「あ!あたし、好きに呼んで!」

「うん、よろしくねちゃん!私は佐古下柳」

「おっけー!そんじゃ柳ちゃん、まった明日ー」


風子と土門も、と付け足すとはそのまま鼻歌を歌いながらミラーハウスを後にする。迷路だけあって出るのには少々時間が掛かってしまったが出れただけよしと考えは遊園地をも後にする。向かう先はただ一つ、自宅だ。


「今日は気分いいしー、韋駄天で県越えでもしてみよっかな。いっぱい走ろう」


くすり、と一つ笑みを零して次第に速くなっていく足取り。数分後にはは走り出していて、家に着くまで立ち止まることも歩くこともなかった。





















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