学校のない休日、朝から韋駄天を履いて町内、県内を走り回っていたは呼び止められて立ち止まる。久しく見ていなかった姿、あの非現実的な影に消えた女性がそこにいた。


「影法師さん?」

「覚えててくれたのね、さん」

「うん、あ。韋駄天だっけ?これありがとね!すんごい楽しいわ」


片足を上げてぶらぶらと振る。足に装着された韋駄天は随分と履き慣らしたことが窺えるほどに至る所に汚れがついていた。しかし酷く汚れていない所を見ると毎回ちゃんと磨いて手入れはしている様子。韋駄天の様子を見て陽炎はやわらかく微笑むと陽炎はに背を向けた。


「一緒に来てくれる?話があるの」

「いーけど何所に行くの?」

「私の家…火影の隠れ家よ」

「火影…?」



















ちゃん!?」

「柳ちゃん?風子ちゃんも石島くんもいるし!あと花菱烈火!!」

「何で俺だけフルネームなんだよ!つーかオマケみたいに言うな!」


妙にお洒落をして客間に入ってきた烈火、柳、風子、土門。土門に限っては右腕を骨折しているらしく治療が施されていた。はというと影法師に連れられやってきた屋敷の客間にて正座をして待機していたのだ。烈火達が客間に上がってくる、そして最後に入ってきた人物には声にならない悲鳴を上げた。


「〜〜〜〜っ!(何で水鏡先輩がいんの!?かっこいい…!何かよくわかんないけどグッジョブ!!)」

「それより何でがここに?」

「立迫先生こそ何でいんの?」

「俺か?俺は火影の謎について聞きたくてなー!」

「火影…、ふーん」

、あんた本当に何でここにいんのさ?」

「影法師って人に来てーって言われたのだ」

「「はぁ!?」」


水鏡を見て顔を真っ赤にし挙動不審になるに烈火のクラスの担任である立迫が声をかける。その時初めて立迫がいたことに気付いたは驚き肩を一瞬ビクッと反応させるがすぐに質問を質問で返した。やけにテンションが高めで答える立迫に微妙な顔をして相槌を打つに風子は呆れ、風子の問いには先程影法師に出された梅こぶ茶を飲みながらはっきりと答えれば風子と土門が目を見開いて驚く。


「アンタ影法師と知り合いだったの!?」

「おいおいおい!何もされてねぇだろうな!?」

「うん?別に何もされてないけど…っていうか逆にしてもらったっていうか何と言うか…?」


のはっきりしない返答に風子と土門は首を傾げるも一先ず全員座布団の上に腰を下ろす。柳の隣に烈火、風子の隣に土門、立迫は真ん中に座り、消去法で水鏡はの隣に座った。ドキンとの胸が高鳴る。


「(み、みみみ水鏡先輩が隣に!!ちょ、夢なら覚めないで!いや、現実じゃないと嫌だよこれ貴重過ぎるよこれぇええ!!)」

「失礼します」


静かに戸を開けて入ってきたのは影法師。いつもの黒い服ではなくて淡い色をした着物を着て髪を一つに結っている。色っぽく、が以前感じた不気味さはまるで感じられなかった。


「ようこそ、おいでくださいました。この屋敷の主、影法師にございます。皆に集まってもらったのは他でもありません。紅麗との戦いにまきこまれた発端…すべての始まりをお話しするため…まずは…烈火!影法師とは偽りの名…私の名は陽炎。あなたの母です。」


一同に衝撃が走る。立迫や水鏡はあまり表情の変化は見られなかったが。烈火に限っては大声を上げ暴れながらその事実を否定している。も少々驚きはしたが今は陽炎が烈火の母という事よりも気になる点があった。


「(あたし紅麗って奴との戦いに巻き込まれてなんかないんだけどなあ…)」


それから語られる約400年前にあった話、火影一族のことについて。火影の頭となる人間には特異な力、炎を生む力があったという。火影六代頭首、炎術師の桜火を父に生まれた2人の男の子。正室の陽炎が生んだ烈火、側室の麗奈の生んだ4つ上の紅麗。烈火と紅麗は母親の違う異母兄弟なんだそうだ。


「オ…レと紅麗が…兄…弟!?」

「紅麗ってやっぱあいつのことか!?」

「えーと…四つ離れて私達は16…ありゃま!あいつ今20か!」

「なるほど!道具のみの一族でなく、その中心にはつねに炎術師がいた…続けて下さい影法…いや、陽炎さん!」


目を見開き驚きを隠せないでいる烈火。土門は焦りを隠せないでいて風子は悠長に指を立てたり折りたたんだりと歳を数え、立迫は納得気に呟く。隣に座り水鏡を気にしながらは拳をふるふると震わせた。下唇を噛み締め嫌な汗が流れるのを感じる。


「(紅麗って何ですか石島君、道具の一族って何ですか立迫先生ぃい!!何何何何、炎術師って何?炎出すって非現実過ぎやしませんか?ていうかあたし完全に場違いじゃない?ここにいていいの?あたしここに何しに来たんだろ…あ、そっか。影法師…じゃなくて陽炎さんに連れてこられたんだっけ。…あれれれれれれ。あたし連れてこられるようなことした?連れてこられてこの話聞かなきゃいけない理由ある?わっけわかんないんですけどぉおおーー!!)」


の心の内の言葉は誰にも伝わることはなく陽炎の話は続く。紅麗は呪われし炎と言われ殺害されかけるも、陽炎の願いにより殺されることはなくなったが2人は蔑まれ、一年も過ぎると麗奈は体調を悪くし紅麗は里のものからイジメのようなものを受けるようになる。そして紅麗は烈火の眠る寝室に忍び込むと口内にまで貫通する程深く左頬を刺したのだという。


「当時。五歳のガキだろ?ヤベーよ、キレてるわ…」

「ずれてりゃ、死んでたなそりゃ…」

「(水鏡先輩がお煎餅食べてる…何してもかっこいい…、!)」


続いて何故400年前の人間である紅麗や烈火がこの時代にいるのかが話される。紅麗は烈火暗殺をもくろんだ後、牢に幽閉された。それも死ぬまで牢の中だという。麗奈は特令としてお咎めはなかったらしい。そんな中、全ての運命を変える悲劇が訪れる。織田信長が火影の里を攻めてきたのだ。狙いは火影の魔導具。頭首である桜火は魔導具を織田に渡さぬよう隠し、兵を迎え撃った。享年三十二歳、桜火の死は早いものだった。涙を流し愛しい夫の最期を語る陽炎の瞳には涙が。興味をなくしてしまったのか横になり座布団を枕にして寝息を立てる水鏡には陽炎の話よりも水鏡のほうが気になってドキドキが止まらないで居る。心なしかの頬は赤く染められていた。陽炎はその後、火影に伝えられし秘術を使って烈火をこの時代へ流したのだが戦のどさくさで牢が壊れたのだろうか、紅麗も一緒に流されてしまったのだという。秘術、時空流離の術が消えた後、陽炎は織田の兵に殺されるが秘術を使った代償に死のない体になったのだ。


「それから私は陽炎の名を捨て、影法師と名乗った。江戸、明治、大正…どの時代に流されたかも知らぬ我が子を探し、私は400年間生き続けた。そして平成の世…そこには…立派に成長した息子の姿があった…」


烈火と紅麗はまだ出会っていないようだったが、陽炎が烈火に近付くことで紅麗が烈火の存在に気付くかもしれない。それをとても危険なことで、陽炎自身もこの話をすぐには信じてもらえないと感じていたらい。


「だからあえて鬼の顔となり、あなたに接した!霧沢さんに風神を渡し、水鏡君に戦いをしかけさせた!あなたが負けない事!万一、紅麗と戦う時は、共に戦うであろう事を信じて!!」

「(何かあたし本当に場違いじゃないっすか…!?)」

「そ…そんな…」


と烈火は陽炎の言葉に驚きを隠せない。言わずもがな2人の驚いている点は全く違うのだが。すると徐に今まで眠っていた水鏡は瞼を上げて起き上がる。その手には透明な変わった形をした剣を持って。


「どしたの、みーちゃん」

「(みーちゃん!?風子ちゃんあたしの知らない間に水鏡先輩と親しい間柄に!?風子ちゃんの裏切り者ぉおおお!!)」

「気配くらい読めるようにしとくんだな。三人だ」


水鏡の言葉に皆、立ち上がって障子の方へと視線を向ける。は立ち上がりはしなかったものの、その方へ向けば途端に障子を突き破って客間に乗り込んできた細身の男2人と太った男1人。変な武器をそれぞれ装着している三人には思わず唖然とする。





















inserted by FC2 system