「カカカカカっ!やはりここにいたかっ、烈火とやら!我ら三兄弟”三羽烏”が殺しに来たぜ!!」
「殺すぅ!?」
「う゛う…」
「他の導具使いもここにいたよォ兄者ぁ!!」
無駄に大声で言う長男、嘴丸の殺すという発言には思わず声を上げてしまった。烈火が喧嘩っ早いのは何かと噂でも耳にしていたし、風子も喧嘩っ早い面もあるので然程彼らが喧嘩をするということには慣れているつもりだが、最近は殺し合いの域にまで達するほど激しい喧嘩をしているのかと素直に驚いてしまった。よくよく思い出せばミラーハウスでの喧嘩も殺し合いのようなものに見えなくもない。
「(いや、でも高校生にして殺し合いに目覚めるってどうかと…!!)」
が頭を抑えて言葉を失っている間にも話は進んでいく。嫌と言う程には自分が何故ここにいるのかと考えさせられる。
「おうおう、治癒の少女も一緒か。うまそうな女だなァ…カカ」
「(治癒の少女って何だ。柳ちゃん?ん?治癒って何、柳ちゃん病気を治さないとまずいですよーな少女ってこと?いや、ないよね。うん、絶対ない。ホントあたしここに何しに来たんだ…!)」
「おいっ、三バカ!!」
怯える柳に対し謎の発言をする嘴丸。わからないことが多すぎると人間は可笑しな行動に出るものだと思う。の思考回路は普段では考えられないような妙にテンションが高めのボケと突っ込みらしきものを取り込んでいた。まず異常過ぎだのだ、非現実な話のあとに見たこともないような個性の強すぎる武器を所持して乗り込んできた男達。どれもこれもは自分が無関係なようにしか思えなかった。
「こぎたねえ手でオイラの姫様にさわんなよ!やんなら表出ろ!」
烈火の一言で一先ず外へと出ることになった達。外の隅っこに置いておいた以前陽炎に貰った韋駄天と言う靴を履いた。貰ったばかりの当初はその猛スピードに体がついて行かず、踊らされるような感じではあったが毎日毎日何時間も走りこんでいると自然と体も靴もそのスピードに慣れ、普通に歩くことも、軽く走ることも、猛スピードで走ることも可能になった。達よりも一歩前に出て拳の骨をボキボキと鳴らし目の前の三人に対峙する烈火。
「おめーら紅麗の手下か?」
「だったらどうした!!?」
「ブチ殺す」
「(花菱烈火が物騒…いや、物騒なのは前から変わってないんだけどさ…!)」
よく見れば烈火の頬には青筋が浮かんでいる。巻き込まれるような気がしては誰よりも後ろに立ち、そして隅っこの方へと移動した。烈火や風子、土門のように喧嘩が毎日の日常だなんていうスリリングな生活を送っていない普通の一般女子高生のからすれば出来ればこの様な場面は避けたいところ。
「ね…え、烈火くんなんかいつもより怖くない?」
「いつもあんなものですよ柳さん」
「イライラしてんのさ。陽炎さんから自分の過去を聞かされて、信じていいのかどうかわかんないのよ。生まれつき難しいこと考えるの苦手な、おバカさんだしねぇ!その上、あんな奴らが邪魔しにきちゃ頭プスプス!!キレてるね…」
「(何かみんなして水鏡先輩と親しくなってない?1番親しくなりたいって望んでいるあたしが1番水鏡先輩から遠くないですか…!みんなずるいよずるい!!)」
ふつふつと嫉妬という名の怒りが心に湧き出したところ、背に羽を生やした三男の羽丸が空高く飛び上がり烈火に向かってかなりの速さで向かっていった。
「いひひひひひひひぃ!!高速飛行者、羽丸のこの動き捉えられまい!?”飛斬羽”でバラバラにしれくれる!」
「紅麗の八万倍おせえ。あくびがでるぜ!」
「(紅麗って人はどんだけ速いんですか…)」
意外とあっさり烈火に動きを捉えられ、顔を手で掴まれた羽丸は烈火の強烈な右拳、続いて左拳を受け血を飛ばしながら嘴丸と次男の爪丸の間を通り抜け後方に吹っ飛んだ。
「おのれぇ羽丸を…」
「斬りきざんでやる!!」
「おまち。あんたらはこっちにいらっしゃいな!!」
「風子ちゃん!?」
嘴丸と爪丸が烈火に向かっていこうとするが風子の挑戦的な台詞に振り返る。今まで黙っていたが驚いて声を上げるが風子は「大丈夫」とウインクをするだけだった。心配でたまらないの頭に乗る大きな手、土門だった。
「大丈夫だ。風子は強い」
「でも相手、何か変なの持ってるし…!」
「(…変?)」
がそわそわと嘴丸の持つ魔導具、嘴王を指差して言うのだが土門は魔導具は魔導具と認識しているので何のことか全く分からない様子。そうこうしている間に戦いは始まった。
「ナメるんじゃねぇぞ女がぁ!!」
「足狙ってんのミエミエだもんねっ!!カマイタチばびゅーーん!!!」
「何か出たぁぁーーー!!」
隣にいる土門で安心したのか心の中で叫んだ言葉が声になって外に出ていた。が何かと称したのは風子が魔導具、風神で出したカマイタチ。向かってきた嘴王をカマイタチで弾いたわけである。目の前で繰り広げられるまるで映画のワンシーンのような光景にの頭の中はすでにパンクしそうだった。
「げっ!!」
弾かれた嘴王がその口を大きく開き噛み付くように風子の足を挟む。嘴丸が嘴王を繋ぐ鎖を勢いよく引っ張れば風子の体が宙を飛んだ。
「石島くん!風子ちゃん大ピンチだって!救出!れっつごー!早く!!」
「お、おう…!」
べしべしと土門の背中を叩いたと思えばぐいぐいと嘴丸の方へと背中を押すに土門は驚きながらも駆け出す。土門が嘴丸の背後を取った時には既に、その隣には水鏡の姿があった。
「たしかに効果的だ。相手が一人だったらな」
「…おまえらやっぱ三バカだわ」
水鏡が魔導具、閻水で嘴丸を斬り、最後に土門の拳をお見舞いする。血を流し倒れた嘴丸には唖然とする。しかし嘴丸はどうやらしぶとい様で、顔を血だらけにしながらも顔を上げ無傷の爪丸に向かって叫んだ。
「爪丸ぅ!!せめて一番弱そーなの一人でも斬り殺せぇ!!」
爪丸がゆっくりとした動作で達の方を向く。正確にはの近くにいる柳を見たのだが。右手に装着された鋭利な刃のついた魔導具、鬼の爪を構えて、太っている割に結構な速さで襲いかかってい来る爪丸。戦闘能力のある烈火や風子、土門、水鏡は嘴丸、羽丸を相手にしていたこともあってか間に合うような距離に居なかった。
「姫!!!」
「きゃあああーーーっ!!!」
迫る刃に恐怖し悲鳴を上げる柳。その柳を庇うように肩を押して鬼の爪の前に出た陽炎の姿には顔を歪ませた。
「あぁあああ!もう馬鹿ぁあああ!!!」
怖くてたまらないのだ、自らあんな凶器に向かって走るだなんて。それでもが駆け出したのは今履いているのが韋駄天で、そのスピードなら間に合う自信が少なからずあったからかもしれない。もしくはただ見ているだけなのが歯がゆかったからか。力いっぱい地を蹴り、出せるスピード最速で陽炎と柳の間に突っ込めば右脇に柳、左脇に陽炎を抱えて直ぐその場を離れる。柳も陽炎も体が軽かったため、が2人を抱えることは意外と簡単なことだった。しかし、が飛び出すのが少し遅かったからか陽炎の腕には鬼の爪で出来たかすり傷がある。とは言えどとても浅い傷なので血も少し滲み出る程度なのだが。
「この肉ダルマぁーーーっ!!!!」
烈火の怒声、その手からは複数の球体の炎が飛び出し爪丸に向かって放つ。真っ黒に焦げその場に倒れる爪丸は「麗…に…栄光…あれ…」と謎の言葉を残して倒れた。は今の目の前で繰り広げられた超人的な烈火の力に言葉を失う。
「大丈夫か、母ちゃんっ!!」
「平気よ、さんが助けてくれたからかすり傷だけ、柳ちゃんが治してくれたわ。すごく幸せよ烈火…今…”母”と呼んでくれたわね」
陽炎の言葉に一瞬にして耳まで真っ赤にする烈火。すかさず烈火は否定するも風子、土門、水鏡がからかう。涙を浮かべる陽炎にはおろおろしながらもポケットからハンカチを取り出して陽炎に差し出した。
「あの、よかったらどうぞ…!(よかった、!珍しくハンカチ持ってたよあたし…!!)」
「ありがとう…それにしても本当に上手くなったわね、導具の扱い」
「導具?」
「まさかも持ってただなんて思わなかったわ」
「へ?」
ハンカチを受け取り微笑を浮かべた陽炎に食いついたのは風子だった。の隣に移動し小突きながら言う風子に状況が読み込めない。そんな様子のにようやく一同が疑問を抱いた頃、陽炎がくすりと小さく笑った。
「さんにはまだ何も話してなかったわね、先に説明しておきましょう。私が貴方に渡したその靴も火影が残した魔導具の一つ、名前は韋駄天。その力は渡したときに説明した通りよ」
「…うそーん」
他人事のように聞いていた先程の話に出てきた火影と言う一族。その一族が残した物が自分の身近にあったことには言葉を失った。魔導具のこと、紅麗のことについて全く無知なに立迫や烈火達が一つ一つ丁寧に詳しく説明をする。言うまでもないだろうが水鏡はその様子を見ているだけだったが。
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