陽炎によればに魔導具を渡したのは元々は烈火との戦いに仕向けるためだったという。しかし思った以上に楽しそうに毎日韋駄天で走り回るの姿を見ていると気が引けて結局はそのまま野放しにしていたそうだ。だが紅麗が動き出した今、それはとても危険なことらしく烈火達と共に紅麗と戦って欲しいとのこと。死も考えられる戦いに参加することに初めは渋ったも結局最後には縦に頷くことになった。理由は簡単なもので、どのみち魔導具を持っていれば狙われるという。ならば殺されるのをただ待つよりかは烈火達と協力し向え打つ方がまだマシだと考えたからだ。対紅麗のために修行をすると烈火と柳が山篭りを始め、続いて風子と土門も2人して修行に出た頃。はとにかくあらゆる所を韋駄天で走り回っていた。それも24時間、食事や睡眠のとき以外はずっと。


「っ、はぁーっ!疲れ、た…」


たどり着いたのは何処かの森の中。走る足を止めて倒れこむように草の生い茂った地面に倒れこむ。荒い呼吸、汗が滲み出て肌を伝う。は静かに瞼を閉じた。冷たい風がを包むように優しく吹き草木が揺れて葉の擦れた音が微かに聞こえる。そして2つの足音、はがばりと上半身を起こして足音のした方へ向けば見覚えのある姿があった。


「やっぱりじゃん!みーっけ」

「久しぶりだな!元気にしてっか?」

「風子ちゃん!石島くん!何でここに?」

「私らも近くにいてさ、何かの声が聞こえて来てみた」


にっと歯を見せて笑う風子、その手にはやはりと言うべきか風神が装着されている。そういえば学校にも風神をつけて来ていたことを思い出す。あの時は魔導具のことは知らなくて風神の見た目から風子はその様な装飾品が趣味なのかと思ったこともあった。


「近くで烈火が修行してるとこがあるんだけどよ、も行くか?」

「行く行く!」


よっと立ち上がりは土門と風子の元へと駆け出す。すると風子は「そういうと思った」と笑ってを誘導しながら歩き出した。暫く3人で歩いていれば生い茂っていた木々たちも少なくなり、崖の様なところに出る。そこには鋭利な刃物で斬りつけられたような大きな痕が沢山刻まれていた。烈火の修行の痕だと思われるそれに、三人は唖然とする。


「凄いねー…、人間業じゃないや」

「ここで烈火も修行してるってきいたけど…」


に続いて風子が呟けば後方から可愛らしいわんっ、と吠える犬の声。振り返れば柴犬が尻尾を振って何度も吠えていた。威嚇するような吠え方ではなく遊んでくれとねだる様な吠え方。


「かわい…っ 何か食べ物…!」


犬の前にしゃがみこんでポケットの中を探すが犬に与えれそうなものは見つからなかった。少ししょんぼりとしながら頭を撫でようと犬に手を伸ばした時だった。


「さわるな!ただの犬じゃない」

「あら、みーちゃん!あんたも一人で特訓なの?」

「!!(み、水鏡先輩だ!先輩と会えるなんて今日のあたしついてるよ!しかもこ、ここ声かけられた…!)」

「風子!!!」


岩の上に閻水を持って腰掛ける水鏡。は目を輝かせて犬そっちのけで水鏡を見ていれば、土門の焦ったような声。何となくそちらへ視線を向ければ豹変した犬の姿に口元が引き攣る。毛が逆立ちだらしなく垂れる唾液。はささっと素早く犬から離れた。


『メッセージ…メッセージ…おマエラに伝えるために我は来る……紅麗様よりの伝言をとどけに…』

「犬が!」

「話した!?」

「おそらく”口よせ”というヤツだろう。自分以外の者を利用して、離れた所から語る忍者の術の一つだ」

「(さすが水鏡先輩!博識だぁ…!!)」


犬が話したことに強烈な衝撃を受ける土門と風子に対し、水鏡の表情は一つも変わらず淡々と語る。は犬よりも水鏡で、水鏡を熱い視線でうっとりとしながら見つめていた。


『我々はいつでも君達を殺す事が出来る。しかしそれでは私の気が静まらない!そこで君達を”裏武闘殺陣”なる武祭に招待する!日時、場所は追って伝えよう。拒むことは許さない…もう一度言う!我々はいつでも君達を殺す事が出来る!!楽しいイベントだ!人がたくさん死ぬ…たくさんたくさん、そしておマエタチも死ぬ!!』

「おんもしれー!いってやろうじゃねえか!紅麗に言っとけ!今度は逃がさねえってよ」


柳を連れて登場した烈火。服はぼろぼろ、顔や腕の至る所に擦り傷のようなものが見える。そうとう修行を積んだらしい、その結果が彼の左の二の腕にあった。上から崩、砕と字が刻まれている。


『キサマごとき小僧が紅麗様になにを言うか!!やはり今ここで死ね!!!』


犬がそう叫んだと同時に烈火の頭上にある崖が爆破し、その衝撃で割れた大きな岩が烈火に向って勢いよく落下する。助太刀に入ろうとした風子を柳が手で制す。その表情はとても晴れ晴れとしていた。


「あの岩のキズ見たでしょ?烈火くん強くなったの」


烈火が素早く左手で宙に文字を刻む、書かれた文字は「砕」


「竜之炎壱式!!!出やがれ『砕羽』!!」


烈火の鉄鋼から鋭利な炎の刃が生まれる。それに一同は騒然とした。迫り来る岩はもう近い。高く飛び上がり烈火は岩を炎の刃で細かく切り刻めばすかさず次の文字「崩」を書いて炎の球体を1つ生み出せば少し離れた崖の上へと飛ばす。命中したそこは爆発し人の悲鳴が聞こえた辺り、犬を操っていた人物はそこにいた様子。烈火は笑顔で犬と戯れていて柳は拍手を送っていた。


「見たかい?みーちゃん。こっちが追いこそうとすると、またその上いっちまう。今のあいつ―――強い…よ!」


無邪気な笑みを浮かべる烈火を見て、風子は呟いた。水鏡は「もっと早く斬れる」と言ったのは果たして聞こえていたのだろうか。はぎゅっと拳を握る。彼女がしてきた修行は、修行と言えるかどうか危うい所だが走り続けたことだけ。まるで戦闘能力の無いは先程、犬の言った裏武闘殺陣で生き残れるかどうかかなり不安なところだった。





















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