「(水鏡先輩の字って綺麗だなー…風子ちゃんも綺麗…それに比べてあたし…)」


女子特有の丸みを帯びた字。殺陣ドームにやってきた達一同はメンバー登録をするために紙に名前を書いていた。水鏡が名前を書いた所で筆をが渡される。それに妙にドキドキしながらは自身の名前を書くと目の前に座る歪な顔をした太った男に紙を渡した。


「チームリーダー…花菱烈火?キシシ…シシ、貴方が紅麗様のおっしゃっていたハナビシ様ですねぇ。ようこそ、この武祭においでくださいました…」


受付のこの男はそれから裏武闘殺陣のルールを説明し始める。チーム対抗、一チーム最大五人まで、チームごとによるトーナメント戦。非合法の大会なため誰が死のうが何があろうと責任は一切とらないと言う。


「大丈夫だよ、姫!」

「大丈夫だよ土門っ…て、フツー逆じゃねーかい?」


ぎゅっと烈火の服を掴み身を寄せる柳、風子の服を掴む土門。何とも青春の1ページのような友人達にはちらりと隣に立つ水鏡を見た。相変わらず表情一つ変えない冷静な顔つき。この2組に続いても水鏡にしがみ付いてみようかと思ったのだが一言も話したこともない先輩にそれは不味いと判断した。水鏡はの名すら知らないだろう、はぎゅっと拳を握った。


「(この大会の内に自己紹介して、会話の一つや二つ出来るようにならねば…!これは絶好のチャンス!神様が与えてくれた機会!!)」


メラメラとその瞳を燃やしながら決意する。そんな様子を水鏡が黙ってみていたことをは知らない。そうこうしている間にどんどん裏武闘殺陣のルール説明は進んでいく。大会では全ての武器を使用する事が出来、魔導具も例外ではない。戦いに敗れた者は武器を奪われる。チーム全滅の時はペナルティーとして貢物を主催者に捧げる事になる。そして烈火をリーダーとするチームの景品は柳となった。


「私を…離さないでね、烈火くん」

「ズルイよ、姫…そんな事言われちゃ叱ることも出来ないじゃんか…」

「(何だこのピンクオーラは…)」

「オイ、いよいよ負けられねーぞ。柳の命がかかっちまった」

「あーなったら柳、テコでも動かないぞ」


烈火と柳の間に流れるふわふわとしたピンクのオーラには少女マンガでも読んでいる気になった。今までルール説明をしていた受付の男は指を鳴らして立ち上がる。するとその背後に立つ武器を其々持った体格のいい男達、計20人。


「さて…ここで一つ試験をさせてもらう。あなた方がこの武祭に出る資格があるかどうか」

「完全にナメられてるわ」

「ちょうどいい。貴様のその顔にはイラついていた」

「(今日もやっぱり素敵です…っ!)」

「ブ男!」

「殺せえーーーっ!!」


男の声を合図に一斉に襲い掛かってくる武器を持った男達。まるで戦い慣れていないはそれに小さく悲鳴を上げる、顔も真っ青だ。迫り来る光る刃に足が震えた。逃げろと脳が命令を下すが体が恐怖で動かない。もう駄目だと諦めた時、目の前に鮮やかな髪が舞う。


「あ…、」


それも一瞬。一瞬にしてがらりと世界が変わった。襲い掛かってきていた男達は至る所に怪我をして倒れ、床や柱も破損している部分が多々存在する。の前には閻水を持った、水鏡の姿があった。


っ、アンタ大丈夫なわけ!?」

「おいおいしっかりしろよ!」


風子と土門がに駆け寄るがの顔色はマシにはなったもののまだ青い。水鏡が振り返ればと視線が絡み合う。背は水鏡のほうが随分と高いため自然と水鏡はを見下ろす形になる。は息を呑んだ。水鏡の瞳が、とても冷たいものだったからだ。


「戦う気がないのなら今すぐ去れ、足手纏いだ」

「ちょっとみーちゃん!?」

「そんな言い方はねぇだろ!!」


すぐに風子と土門が水鏡に向って反論するが、水鏡はそれだけ告げれば背を向け会場に向っていく。残されたは心ここにあらず、この言葉がぴったりだ。は水鏡が好きなのだ。このことは水鏡以外全員が知っていることである。故に只でさえキツイ言葉だというのにからすればかなり心に響いた言葉だっただろう。風子と土門がに声をかけるのだがの反応は薄い。


「( 水 鏡 先 輩 に 嫌 わ れ て し ま っ た … ! )」


の背後では火山は噴火したところ。その場で膝をついてしまいたいところだがそうはいかない。ふらふらとしながら水鏡に続いて会場に向うの後を心配そうにしながら続く風子と土門。その一歩遅れ小走りで烈火、柳とついていく。残された陽炎は困ったように表情を歪めて先を行くの背に呟く。


「大丈夫かしら…」


無論、大丈夫なわけないのだが。前から聞こえる「母ちゃん置いてくぞー!」という息子に声に一つ笑みを零して陽炎は先を進む。裏武闘殺陣が開催されるまであと少し。













無事開催式も終了し、達はAブロック闘技場へと来ていた。ちゃっかりと烈火は忍者の服へ着替えており、そのやる気が見受けられる。第一戦目は火影と空の試合。火影とは烈火率いるのチームで、空は名の知れた格闘集団らしい。


「とりあえず試合の順番どーするべ?」

「じゃんけんはどうかな?」

「さすが!姫!ナイス提案!」


烈火の切り出しに人差し指を上に向けて答える柳。途端、烈火は笑顔を振り撒き柳にそう言うと全員を手招きして円形になる。丁度の向かいに水鏡がいて先程のこともあっては顔を背けた。


「そんじゃ負けた奴から試合な!じゃーんけーんほい!」


烈火の掛け声に全員が一斉に手を出した。パーの中に一人だけグー。水鏡だった。


「みーちゃん弱っ!」

「ギャハハハハ!一人負けしてやんの!」

「んじゃ水鏡が先鋒な!」


出した握り拳を身ながら口元を引き攣らせる水鏡に風子と土門がからかう。烈火も顔は馬鹿にした笑みを浮かべているがまずは試合の順番と再びじゃんけんほい、と掛け声をする。あいこが3回続き、負けたのは土門で次峰。次はあいこが6回続いて風子が負けて中堅。烈火がグー、がチョキでが副将。烈火が大将となった。順番が決まり陽炎がそれを審判に告げに行って暫く。審判である十二支の一人、辰子がコールする。


「両チームリングへ!!これより試合開始です!!」


モニターに表示される対戦表。は相手が華奢な男の子で内心ほっとする。もしもここで空の大将や、土門の様な体系が相手だったなら即棄権ものである。最後のじゃんけんでは烈火に負けたことを心底幸運に思った。


「あいつら〜〜っ!」

「かまうな。どうせ奴らは麗のメンバーじゃない。どちらが強いかはすぐわかる」


空を相手に四人で迎え撃つ火影に観客席から馬鹿にした笑いと批判の声が飛んでくる。それに中指を立てて怒る風子に水鏡はリングに近付いていきながら言う。先鋒は水鏡、は水鏡に声をかけようとするがすぐに押し黙る。理由は簡単、気まずいのだ。


「水鏡VS大黒!!始めっ!」


水鏡がリングに上がったことで試合開始の合図が下る。とにかく激しい攻防。棒を武器とする大黒が水鏡をひたすら攻める。しかし全ての動きを見切っている水鏡は雑作もなく全てを避ける。すると大黒はリングに棒を強く突きたてればリングの破片が飛び散り水鏡の視界を妨げる。その隙に大黒が一撃を食らわせれば水鏡はリング外まで吹っ飛ばされた。


「先輩っ!」

「水鏡!!」


と烈火の声が響く。先程の気まずさを思い出しはすぐに両手で口を押さえた。砂埃を立てて水鏡が落ちたところに烈火達は駆けつける。も戸惑いながらも後ろから水鏡の様子を窺う。ぴょこたんと水鏡は立ち上がると足に怪我を負っているのにも関わらず再びリングへと上がった。


「扇風機の止め方、知っているかい?」


水鏡が烈火達に投げかけた問いに空の空海や最澄の表情は変わる。誰も気付かなかったが。再び激しい大黒の棒突き、速いそのスピードに一本の棒が百本にも見える。しかしそれは水鏡は閻水の切先で棒の中心部を押さえて止めていた。大黒は更にスピードを上げて突きを繰り出すが水鏡は避けることなくその棒を閻水で斬る。続いて大黒の体の至る所から血が噴出した。その素早い剣技には言葉が見つからない。



     『戦う気がないのなら今すぐ去れ、足手纏いだ』



先程の水鏡の言葉を思い出す。どれだけ今自分が火影の足を引っ張る存在かと思い知らされた気分である。自分が一戦出て戦うより、代わりに誰かが出て戦った方が火影の勝利が一歩近付くかもしれない。否、そうだろう。己の力のなさに無性には恥ずかしくなった。


「そこまで!勝者水鏡!!」


辰子が火影の最初の勝利を宣言した。





















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