「あの石のリングが君たちの墓石になるんだ。キレイな方がいいだろ?」

「なによあんた!!」

「まてや風子。おまえ…紅麗の館にいた女だな?」


二回戦に出るために闘技場にやってきた火影。しかしそこでは新しいリングに取替え作業中だった。どうやら昨日の試合でかなりリングが破壊されてしまったらしい、それも原因のほとんどが火影だという。烈火が審判である子美に文句を垂れていれば行き成り現れた髪の長い美しい女性。しかしその外見とは正反対で言っている事はかなり酷い。反論したのは勿論風子で止めに入ったのは烈火、その目は鋭く女性を見ている。


「紅麗暗殺部隊”麗”十神衆の一人、音遠よ、ヨロシクぅ」


最後にハートまでつけて音遠はそういうと、まるでもう用は済んだとばかりに踵を返す。もちろん火影の中で彼女を引き止める者はいない。むしろ敵視した警戒するような目で音遠を見ていた。


「今日、君たちは幻獣朗のチームによって皆殺しになる。その前にあいさつしとこうと思ってね」


後ろを振り返ることなく歩いていく音遠、その音遠の歩いていく先には丁度今到着したが歩いて来ていた。どうやらにも先ほど音遠の言った自己紹介は聞こえていたらしい。しかし面識はなかったのでぺこっと軽く会釈をし、音遠の横を通り過ぎて火影の元へと向った。音遠は音遠で然程のことは気にしていないらしく横目でその姿を見るなりすぐに正面を見て歩いていく。そこで気付いたのか烈火が「!」と声を上げた。


「ったくおめー何やってんだよ!昨日あれっきり帰ってこねぇで…って、何かあったのか?顔色悪いぞ?」

「ううん、大丈夫。昨日は何か森ん中で寝ちゃったみたいでさっき起きて吃驚した」


けたけたと笑ってがそう言えば「お前馬鹿だな!」なんて言い、つられたように笑う烈火には心の中で安堵の息は吐いた。森の中で寝てしまったのは間違いではない、事実だ。正確には気絶してしまったのだが。先ほど目が覚めたのも事実故にの格好は昨日のまま、黒のTシャツにハーフパンツ、足には韋駄天でTシャツの上には長袖の白のパーカーをきている。時間がなかったため、は韋駄天でダッシュでホテルに戻り腕の応急処置と、このパーカーだけを取りに戻ったのだ。烈火はそれ以上何も聞いてこず修復作業をされているリングに視線を向ける。ぎゅっとは右腕を握った、ちくりと走る軽い痛みに目を細める。暫くしてリングの修復作業が終了し、二回戦の第一試合が開始された。


「おい!風子はまだか!?」

「みりゃわかるだろ、ルーズな女だ」

「風子ちゃん何処まで散歩行ったんだろーね」

「ホッホ…強気じゃのう、火影は…今度は四人で戦う気か。我々もなめられたものよのう…獅獣…」


幻獣朗がそう隣にいたマントの人物に問えばばさりと脱がれるマント。露にされたその姿はまさに獣の様で人間の姿をしているのに人間のように感じられなかった。もそれに言葉を失い、柳は小さく悲鳴を上げる。


「そういえば、おまえたちは昨日のこのチームの戦いを見てなかったな。こいつは、相手チーム五人を一人でかみ殺した!その後…奴は食事を初めた―――メニューは人肉五人分…」


水鏡の説明には開いた口が塞がらない。その人間離れした食事メニューに吐き出す言葉が見つからないのだ。こんなことは思ってはいけないのだろうが心の片隅で今日は勝てないかもしれない、なんて弱気な事を思った。心こそ強気でいなければいけない、でないと勝てる試合も負けてしまう。それを理解していながら、やはりどうにも強気になれそうにはなかった。


「(てっか、人肉って凄い不味いって聞いたけど…美味しいのかな…。)」

「ナメると痛い目見るぞ、ハンパじゃない!四人では危険だ!」


水鏡の言葉に急遽、新たにメンバーを追加する案が浮かぶが、こんな危険な相手と戦うというのに自ら名乗りでるような者はいない。補足しておくならば火影はとても不人気なため、まず助けてくれるような人は居らず、有り得ない。結局四人で挑む事になり、今まさに試合が開始されようとした時だった。


「どいつここいつもしりごみしちゃって根性ないなァ!やれやれ…」


そんな軽い声と同時に物凄い勢いで上から落ちてきた物は証明の明かりを反射させながら地面深く突き刺さる。金色のボディがとても美しい、静まり返った闘技場に地面に突き刺さった衝撃音の高いキィィインとした音がよく響いた。


「鋼金暗器!!」


烈火がその地面に突き刺さる金色のものを見て鋼金暗器と声を上げた。恐らくこれも魔導具なのだろう、そうが一人で納得していればその上に降り立つ幼い少年。ふわふわとした髪や見える八重歯がとても可愛らしい印象を与えた。


「火影が負けちゃうって事は柳姉ちゃんが危ないんだよね!力になってやってもいいよ!小金井薫ケンザ〜ン」


いきなり乱入してきた少年、小金井に驚きを隠せないでいる烈火と土門、烈火に限っては青筋を浮かべていて水鏡は何ともいえないような表情をしている。小金井と面識のないは一人首を傾げていた。


「イエーイ。はぅどぅゆうどゅ?俺が来たから安心してよっ!火影は優勝!!」


無邪気な笑みを浮かべて言う小金井に、同時に烈火と土門の拳が飛んだ。どうやらあまりいい間柄ではないらしい、それも烈火の言動からして柳絡みでの出会いで敵だった様子。結果、烈火は小金井の好意は受け取らず土門も冷たい目で小金井を見ていた。それに青筋を浮かべた小金井、は小金井の様子を観察していたのだが、小金井のとった行動に小さく笑った。


「こっちをむけ兄ちゃん’S!!」


小金井は後ろから柳に抱き着いていて柳もほんのりと頬を染めるだけで何も言わない。何ともいえないほのぼのとした雰囲気(には感じている)に緩い表情を浮かべた。


「(柳ちゃん可愛いもんねー、モテモテだなー)」

「カンちがいすんな!俺は柳ちゃんのために戦う!あんたたちのためじゃないっ!俺、柳ちゃん大好きだもん!」


それから小金井と烈火のやり取りが続き、柳から離れることを条件に小金井は火影に仲間入りを果たした。あれほど敵視して冷たい態度をとっていたというのに、そんな理由で仲間入りを認めてしまっていいのだろうか。こっそりとそんな事を思ったのだが、にとって過去はとてもどうだっていいことだった。小金井は何はともあれ仲間になったのだ。お互い面識のない以上、知り合う必要がある。は小金井の前まで行くと、小金井の視線に合わす様に屈んでにこりと笑った。


「あたし!よろしくね」

「俺は小金井薫!よろしく姉ちゃん!」


お互いに笑いあって自己紹介をする。実際に話してみると益々には何故小金井が以前敵だったのかわからなくなった。同時にこんな幼い子が自ら戦うと名乗り出たというのに、自分は弱気で何て情けない年上なのだろうと思う。すると小金井の後方より聞こえてきた笑い声、その声に聞き覚えのあった小金井やはその方へと視線を向ける、音遠が一人でそこに立っていた。


「小金井じゃないの、どうしてあなたそっちにいくの?紅麗様はどう思うかしらね、この裏切り者!やっぱり逃げた時、殺しておくべきだったわねぇ…」


小金井は何も言わずに顔を逸らす。小金井のその様子には口を噤めば地面に転がっていた手ごろな石を無言で拾い上げるとプロ野球選手顔負けの豪速球で音遠に向って投げつけた。やはり音遠も戦う者。少々驚きながらではあったが間一髪であれ、ちゃんと避けられ豪速球で飛んでいった石はその後ろに立っていた男の後頭部に命中し気絶でもしたのか、男は倒れた。一部始終見ていた周囲はその光景にまるで石化したかのように固まり、音遠とを見ている。もちろん誰も話さず沈黙。音遠の視線が小金井からの方へと移った。


「ちょっとアンタ!何するのよ!!」

「薫くんはあたしたちの仲間だから、勝手なこと言わないでもらえませんか」


小金井の手をぎゅっと握ってそう言えば、小金井は驚いたように顔を上げた。もそれだけ音遠に言えば踵を返し、早歩きで烈火達の元へと歩き出す。今だ握られた手、の後ろを引っ張られるように着いていく小金井は「姉ちゃん、!」と控えめに声を掛けた。すると葉その場にピタリと足を止める。俯いていてその表情は見えない。


「あ、あのさ……」

「っあー!!怖かった!」

「…え?」

「いや、結構勢いに任せて石投げてあんな事言ったんだけど冷静になって考えたら音遠さんって結構強い人だったりするんでしょ?何か今更やったことに恐怖心が、さ!ほら、あたしって弱いから瞬殺されちゃいそうだし…。でもでも死にたくないし…!」


あははっと苦笑いしながら言うに小金井は驚いたように目を丸くする。そんな小金井を見ては「でも言った事には後悔してないよ!」と笑えば小金井は一瞬固まるもすぐに口角を吊り上げて笑った。


「俺、ちゃんも大好きだ!」

「うおぅ!?」


いきなり腰に飛びついてきた小金井に驚き声を上げただが、何だか弟を持った気分になり、振り払う事も出来ずわしゃわしゃと小金井の頭を撫でた。少し遠いところからではあったがそれを見ていた烈火達は妙に微笑ましい気持ちになるがすぐに小金井のことを思えば頭を左右に振って見定めるような厳しい目に切り替える。そしてついに、二回戦第一試合が開始される。
























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