先鋒は小金井と獅獣。烈火曰く小金井を最初に持ってきたのは様子見なんだそうだ。最後に残しておいて大切な場面で裏切られる可能性を思えばその考えは正しい。しかしどうにもには小金井が裏切ったりするような人物には思えなかった。


「(薫くん良い子だと思うんだけどなー…)」


そんなこんなで試合が開始される。鋭い爪を立てて獣のように襲い掛かってくる獅獣を鋼金暗器で受け止めれば肩から背にかけて斬りつける。間入れず鋼金暗器を四之型三日月に変形させれば獅獣の胸の所を容赦なく斬りつけた。ブーメラン型のそれはくるくると回転し小金井の手に戻る。容姿からは想像も出来ぬような強さに観戦していた周囲がざわめき立つが、1人の女性がリングに近付いてくればそれも静かに収まった。


「どうやら本気みたいね、小金井赤ちゃん。あなたまるでコウモリみたいよ。コウモリにはねェ…鳥達には”僕も鳥だ”と愛想をふりまき、動物には”僕は動物の仲間だ”と言い、結果、どちらにも相手にされなくなった…て、お話があるのよ。麗を敵に回すコウモリ…どんな死に方がお望み?」


音遠が口角を吊り上げて言った言葉に気をとられたのか、一瞬生んだ隙を獅獣に攻撃される。音遠が高らかに笑った。同時にの怒りのボルテージもぐんぐんと上がっていく。そしてついに火山の噴火の如く、最高値を突き抜ければは足元に落ちていた手ごろな石を拾い上げた。


「苦しいでしょ?そろそろまた裏切っちゃったらァ?あなたらしくていいわよボ・ウ・ヤ!」

「うるせえんだよそこの醜女!!!」

「あたしらの仲間にごちゃごちゃ言うなつってんでしょ!!!」


烈火とほぼ同時に音遠に向って怒鳴りつければはプロ野球選手が腰を抜かしそうな程の超豪速球で手に持った石を投げつけた。それは音遠の額に命中し、額を片手で抑えながら音遠は震えていた。それはブスと言われたことからのショックが原因だと思われる。恐らくの投げた石もそれで避けることが出来なかったのだろう。


「いつまでも遊んでんじゃ、小金井!!てめぇまさかその程度じゃねぇだろな!?」

「いけーー!!薫くんー!!(…っていうか石ぶつけちゃったんだけど!後で呼び出しとかされませんように…!!)」

「…へへっ!当然だね。バッキューーン!!」


獅獣の攻撃を受けていただけの小金井はにぃっといつも通りの笑みを浮かべると鋼金暗器の刃の部分で獅獣の胸を突き刺した。そのまま上へと裂けばリング上を滑り獅獣は吹っ飛んでいく。勿論言うまでもないがこれで終わりではない。獅獣は丁度幻獣朗陣の前まで吹っ飛ぶと、その場でむくりと立ち上がった。そしてそのまま後方に少々下がれば幻獣朗が獅獣の額に手を伸ばす。


「お主に埋め込んだ獣の遺伝子を、目覚ます刻ぞ」


幻獣朗の指が獅獣の頭を貫通する。そして何かスイッチが入ったかのように獅獣は獣の様な絶叫を上げると手の爪は驚異的なスピードで伸び、腹や腕、肩からとてつもなく鋭利な骨が突き出る。あまりにも迫力あるそれに言葉を失い顔を真っ青にさせてカタカタと震えるに温かい大きな手が頭に被さる。ゆっくりとした動作でその手の先を見れば真っ直ぐリングを見たままの土門の姿。わしゃわしゃと頭を撫でられ、耐えれなくなったのかは土門の大きな身体にしがみ付いた。


「合成獣だよ!」


小金井がそう切り出せばそれから幻獣朗についての説明が始まった。心霊医術、刃物を使わず手を直接幹部に差し込み気で治す医術の事で、大抵は嘘っぱちだというのに幻獣朗は本物の術師とのこと。その術を使い、幻獣朗は人間の身体に獣のDNAを注入して合成獣、獅獣を作ったのだという。神をも恐れぬその行為には悪魔と言う言葉がぴったりだった。


「神なんぞ存在せぬよ…殺れ、獅獣!!」


幻獣朗の指示に従い、獅獣は大きく口を開けて宙へ跳べば鋭い爪を翳して小金井に襲い掛かった。何とか鋼金暗器で受けとめるが弾かれ、その爪で攻撃されリング上を転がって飛ぶ。それを見ていたは土門から離れるとリングに身を乗り出して「薫くん!!」と叫んだ。ぽたりぽたりと、リング状に小金井の紅い血が落ちる。それを手の甲で拭い、鋼金暗器を支えに立ち上がれば再びその強く意思の篭った目で獅獣を見据えて鋼金暗器を構えた。


「あの時優しい紅麗もいたはずなんだ!!すべてが偽りなのか確かめなきゃいけない!!俺はもう一度だけ紅麗に会う!たとえ死ぬ事になろうとも、殺す事になろうとも!」


小金井が地を蹴り飛び出した刹那、鋼金暗器は鎖鎌に変形し獅獣に絡みつく。続いて鋏の形をした極に変形すれば、鎖を利用して勢いよく獅獣に向って行き切り裂いて、最後に弓の形に変形し、獅獣の心臓に矢を打つ。獅獣の胸から夥しい程の血が噴出した。


「標的は紅麗だ!おまえなんか邪魔だよ」


獅獣はうつ伏せになって倒れる、同時に子美が小金井の勝利を宣言した。火影陣から烈火や土門達がリングにまで上がっていき小金を中心にして軽く叩いたりと笑みを浮かべる。も小金井の勝利を聞けばほっと胸を撫で下ろし、大きく表示されたモニターを見上げた。次の試合は烈火と名簿無記名の人、その次はと烏という人、その次が土門と瑪瑙という人で、最後に水鏡と幻獣朗である。自分の対戦相手も獅獣のようなのが相手なのだろうか、そう考えるだけで鳥肌が立つ。とてもじゃないが攻撃能力を持たない自分が勝てる相手ではないと思う、よくよく思えばよくこれでこの大会に出場しようと思ったものである。口に出しては勿論言えなかったが、今まで以上に逃げ出したくなった。


「大丈夫よ」

「へ?」

「貴方が思うよりも貴方は強いわ」


の隣にいた陽炎がそう優しい微笑を浮かべて言えばは目を丸くした。まさかそんな事を言われるとは思わなかったからである。妙にその言葉がすとんと胸に降りてきて体中、指先まで浸透する感覚に陥る。陽炎の手をぎゅっと握れば温かいそのぬくもりに自然と表情が和らいだ。今度は陽炎が目を丸くする番で、は陽炎に「ありがとう」と言葉を零す。陽炎はにこりと微笑み、ぎゅっとの手を握り返した。それから話は進み試合は勝ち抜き戦へ変更され、小金井は麗(幻)の次峰と戦う事になる。この試合が全てを狂わす鍵となった。





















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