烈火VS瑪瑙戦は烈火の勝利、引き続いて大将戦の烈火VS幻獣朗の試合も烈火が勝利を収めた。試合終了後、幻獣朗は音遠の手によって達の目の前で爆発したかのように肉片と化す。それに柳は気を失い、も気を失いはしなかったが酷い吐き気に襲われた。医務室で柳が目覚めた頃にはの吐き気もすっかりと引いていて、すっかり仲良くなった空のメンバーと夕食を摂ったあと、部屋にて烈火は最澄とテレビゲーム。土門、風子、小金井はトランプでポーカー。ソファに腰掛る水鏡は陽炎と話をし、瑪瑙は酒瓶を片手に酔っ払った大黒の話にひたすら聞き手だ。


ー、アンタまた行くの?危ないって」

「うん。でも大丈夫だよ」


バスルームから出てきたはドライヤーで乾かしたもののまだ少し湿気ている髪を何時も通り右耳の後ろで1つに縛り、以前最澄の試合時に着用していたメンズもののサロンペットを着ていた。補足しておくならば両足ともショートパンツの丈になっている。中には白の半袖のTシャツを着て、袖を肩まで捲り上げ、ベッドの上において置いたウエストポーチを手に取り腰に装着した。トランプを手に昨夜同様、ホテルを出て行こうとするに風子は眉を潜めるのだ。心配してくれているがよくわかる。は苦笑いを浮かべて韋駄天を履くと部屋のドアまで向っていく。


「あまり無茶は駄目よ、明日も試合があるんだから」

「はい」


陽炎の心配だと言わんばかりの表情にはやわらかく笑みを浮かべると、大丈夫です。とドアノブを捻って外へと出た。そして韋駄天で駆け出し昨日と同じ場所、森の中ではウエストポーチの中身を地面に広げる。大きくも小さくもないウエストポーチの中にはぎっしりと物が入れられていた。


「消毒液にー、ガーゼ、包帯、…んで空神」


ウエストポーチを外して木の根元に置けば、先日紅麗より頂戴した籠手型の魔導具、昆虫のような形をした空神を手に取った。昨日の収穫は魔導具の名前が分かった事と、魔導具自体が意思を持っているらしく、その性格は悲惨だということだ。魔導具の名前が分かったのは、魔導具自身から聞き出したからである。兎に角やらなければ始まらない、は右手に空神を装着した。眩い光りを放つ核の部分。そして直接脳に響いてくる声には目を閉じた。


《よォ、今日もやる気かァ?》

「あたぼーよ、絶対屈服させてやる!」

《いつまで持つかねェ。忘れんなよ、俺ァいつでもお前を喰い殺せるっつーことをなァ》

「喰い殺せるもんなら喰い殺してみろっての、実際まだ喰い殺してないじゃん」


はにぃっと口角を吊り上げて言う。勿論本心からの挑発ではない。事実腹の中ではビクビクだ、今日こそ本当に喰われてしまうかもしれない。空神の喰う、というのは獅獣のように食べるというわけではなく、の魂を喰らい、体を乗っ取るという意味である。空神はげらげらと下品な笑い声を上げた。


《よくもまあ、そんな強がりを言えるもんだなァ。心の中じゃ震えてんぜェ?》

「五月蝿いなぁ、でも屈服は絶対してやる!」

《そういうお前、好きだぜェ。…そういや俺の名前は言ったがお前の名前は聞いてなかったなァ。お前に興味が湧いた。名前覚えてやるよ、言ってみろ》

。ご主人様の名前だよ!よーく、覚えておくんだね!」

《ヒャハハハ!ご主人様になるかどうかまだ分かんねぇが覚えといてやるよォ!》


ギラリと魔導具の核が光れば空神の長い触角の様なものが2本、の腕に深く突き刺さった。



















「っ……、もうちょっとだったのになぁ…」


意識が浮上した時、は地面に倒れていた。のそりと腹筋だけで上半身を起こせば右手に視線を落とす。触覚の様な2本の足は腕から抜けていて、腕にぐるぐると巻きついている。小さくため息をついて空神を腕から取り外すとそれを布に包めてウエストポーチの中へ。用意しておいた消毒液を2つ穴の開いた腕にかければ何ともいえない沁みた痛みにぎゅっと目を瞑った。その後ガーゼを当てて包帯を巻きつける。消毒液もウエストポーチの中へ仕舞えばホテルに戻ろうと腰を上げた。刹那、大きな音と風に乗ってやってきた温かい熱に首を傾げて韋駄天でそちらへと走る。意外と近場だったこともあってか直ぐその場に到着することが出来、そこには腕に炎を巻きつけ、並べてある空き缶を真っ二つにする烈火の姿があった。


「くーっ、力がありあまってんぜ!!2時間睡眠でもナチュラルハイだ!!!」

「元気だねー」

「うおっ!?何だよかよ!お前まだホテル戻ってなかったのか!?」

「ん、また森の中で寝てたみたい」


烈火の後方で隠れる事もなく様子を窺っていた。ガッツポーズをとり、声を上げた烈火に思わず言葉が漏れた。肩をビクッと揺らし勢いよく振り返った烈火に小さな笑いが零れる。続いて右腕の包帯に気付いた烈火には「木の枝で擦った」と簡潔に返す。勿論これで誤魔化せるとは思って居なかっただが単純な烈火は意外とあっさりの言い訳を信じた。思わず噴出しそうになるがぐっと堪える。


「さて!まだ夜明けまで時間あるし、軽くランニングでもすっか!も付き合え!」

「え、まじですか」


駆け出した烈火にそう言葉を返すのだが表情と言えば笑顔である。走る事の好きな、烈火の誘いを断るはずがなかったのだ。烈火に続き軽く駆け出しただが、角を出たところで烈火が転がり後ろに下がってきたのを見て慌てて足を止める。


「ちょ、何…はっ!?んんんんんんんん!?」


建物の壁からひょこりと顔を出して見れば柳と水鏡が2人で歩いている。それに大声を上げそうになったを烈火は後ろから口をしっかりと両手で押さえれば、は口を押さえられたまま絶叫を上げた。口を押さえられているので全くと言っていいほど声は出ていないが。


「ちょ、花菱くんアレどういうこと!?ちゃんと柳ちゃん見張ってろっての!」

「知るかっつの!さっきまで寝てたのに…つか見張るって何だ!こそ水鏡見張ってろよ!」


お互い平手で相手の肩や背中を叩きあいながら言い争う烈火と。しかしお互いが小声であっても話していたら柳と水鏡の会話が聞こえないことに気付き黙り込む。2人揃って建物の影から顔を出してこっそりと水鏡と柳の様子を窺う。


「(何を話してんだ??)」

「(もしかしてまだ水鏡先輩、柳ちゃんのこと…!?)」


妙にドキドキしながら様子を窺う烈火に対し、水鏡と柳の会話が聞こえないために勝手に推測をするはショックを受けたような様子。すると柳が少し錆びた鉄柵で何やら指を切った様子、白い肌に紅い血が伝う。それを見た水鏡は柳の手をとるとそこに口付けた。動揺を隠し切れない柳、飛び上がる烈火、は崩れ落ちるように両手両膝を地面について項垂れた。柳の傷口から血を吸い取り、地面に吐き出す水鏡。やましい気持ちで行ったものではなく、所謂破傷風予防。


「みぃきゃぐわみーーーっ!!!」


飛び出し勢いよく水鏡に飛び蹴りを食らわす烈火。もろにその蹴りを受けて吹っ飛ぶ水鏡。行き成り登場した烈火に驚きを隠し切れない柳。両手両膝を地面に着き、項垂れたまま負のオーラを漂わせる


「吸血鬼めぇぇーーっ!」

「誰がだ!!」

「(やっぱり水鏡先輩はまだ柳ちゃんのこと…あたしの入る隙間はないんですか神様…!)」


目の奥が熱い、泣いてしまいそうだ。烈火と水鏡のやり取りが続き、気付けば殴り合いに発展している。それを必死に止めようとする柳、しかし2人は聞かなかった。



















「三日目!!Aブロックもついに残り二試合になるわけですが…初戦は火影VS麗(音)!!!麗(音)は女性のみのチーム!三人編成!!チームリーダー”音遠”!!”魅希”!!”亜希”!!対するは火影は五人チーム!!これは戦闘的に有利かと思われましたが…対麗(幻)戦より新たに登録されている小金井選手が本日は棄権!!小柄ながら、その戦闘能力はか・な・り高い選手だけに、これは火影には痛い欠場!!」


明るさ、元気を取り戻した辰子がマイクを片手に大きな声で言う。相変わらず雰囲気の悪い烈火と水鏡、負のオーラ全開の。早速水鏡と烈火が喧嘩を始めようとしたが、風子の拳と蹴りが烈火と水鏡の頭部に見事に決まった。何時もならば水鏡に蹴りをかました風子に詰め寄るだが今日は違う。見向きもしないで、俯いたまま。今にも膝から崩れ落ちてしまいそうである。


「何よさっきから!!どうしたってのさぁ!?仲直りなさい!!も!何一人で勝手に落ち込んでんのよ!」

「無理だよ、もうあたしの薔薇色の青春は終わった…!」

「はぁ!?」


風子が声を上げる、はリングに両手をつき項垂れる。の周辺がどんよりとした空気になる。近付けば感染してしまいそうだ。その後ろでは烈火と水鏡がお互い目を合わさないようにと背中を見せ合っている。いつもと雰囲気の違う烈火、水鏡、に柳と陽炎は心配そうな表情を隠しきれないでいた。互いのチーム人数が異なるため勝ち抜き戦が適用されたのだが、リングに麗(音)の3人が同時に上がる。行き成りの事に観客達がざわつき始めた。


「花菱烈火!どうかしら?この一戦で勝負を決めたいわ。三対三を望みたいんだけだけど―――ちまちまやってくのはメンドーなのよ。こっちの三人とそっちのメンバー3人で決着をつけましょ。順当にいけば…烈火と―――水鏡との三人って事よね」


先鋒から、水鏡、烈火の順にモニターには表示されている。烈火は水鏡の名前が挙がれば水鏡を横目で睨みつけた。水鏡は水鏡でそれに気付いているのだろうが、相手にするつもりはないのだろう。無視を決め込んでいる。に限っては聞こえているのかどうかも危うい。


「認めないわ!ダメよ3人とも!!」

「おうよ、冗談じゃねぇ!あいつと組むくらいなら風子とでやるね!」

「気安く触らないで」

「僕もイヤだね」


陽炎は音遠が今の烈火、水鏡、そしての関係に気付いている事を悟る。故に音遠の提案を呑むことは出来ないのだ。勿論それを受け入れる烈火や水鏡ではない。烈火は青筋を浮かべながらも笑顔で風子の肩に手を回し、の肩を持つ。は烈火に肩を掴まれた瞬間、それを手で払ったのだが。水鏡もそっぽ向いていて音遠の要求を拒否する姿勢を示す。


「聞いた、魅希、亜希?」

「ふふっ」

「ははははは!!やれやれ!本当に腰抜けな連中だねぇ!!」


それから音遠の挑発が火影に向けられる。単純な烈火はすっかり浮かべていた笑みを消して、鋭い目で音遠を見る。次々と浴びせられる挑発の言葉。に関しては右から左に抜けているので相変わらずの調子である。挑発に乗せられ完全にキレた烈火、リングに片足を乗せて音遠に怒鳴ったと思えばそのままリングへと上がっていく。その後ろに水鏡。どうやらこの2人はすっかり挑発に乗せられたようだ。にやり、と口角を吊り上げる音遠。陽炎が声を上げる。


「これは罠よ!!挑発に乗っては危ないわ!!」

「平気じゃ母ちゃん!こんな水鏡、無視して俺一人であいつらブチ焼いてやるよ!!」

「同意見だ。おまえは数にいれない。さっきの言葉…死ぬ程後悔させてやる。」

も上がって来い!つってもお前もリングに立つだけでいいけどな!」

「…花菱くんちょっとうざい


後ろに暗い影を背負い、はどんよりとした顔を上げると無表情でそうぽつりと言葉を零す。続いて重い足を動かしてリングに上がれば辰子が闘技場全域に良く聞こえるように大声を上げた。


「両チームの承認を得ました!!!麗(音)!!音遠、魅希、亜希組!火影!!烈火、水鏡、組!!」

「初めに言っておく。何もするな!足を引っぱられるのはゴメンだ」

「るせえ!てめえの指図はうけねえ!!」

「(水鏡先輩…てかあたし完全に蚊帳の外…)」

「始め!!!」


辰子が試合開始の合図を出す。長い長い戦いが始まった―――…





















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