「水鏡ィ〜っ、あいつら試合前なんか言ってなかったっけ?」

「”腰抜け”に始まり…”フェミニスト”、”クズ”、”臆病者”、最後に”チキン”…かな」

「(…水鏡先輩がこんな粘着気質だなんて知らなかった…)」

「そこまで言われちゃ見せるしかねーだろ。男の意地!」

「………(女のあたしは…どうしたらいいんだろ、)」

「つーわけだからも男の意地見せろよ!」

「あたし女だからね!」

「ってーな!!」


あまりにも素敵で無邪気な笑みで言ってくる烈火に腹を立てたはすかさず烈火の尻を蹴飛ばした。軽く撥ねて尻を押さえてを睨む烈火。はもう無視である。すると長い爪を伸ばしてリングを蹴り、烈火、水鏡へと向ってくる魅希。目にも映らぬ速さでは咄嗟にその場から移動すると、魅希の横に現れてその足を引っ掛ける。の足に引っかかり体勢を崩した魅希の腕をしっかり烈火が押さえれば、水鏡が魅希の背中に肘鉄を食らわせる。鈍い音が鳴り、少量の血を吐く魅希。


「”速えなら止めたらOKホトトギス”。だな」

「…仕様もな」

「…歴史もギャグも勉強しとけ」


烈火のギャグは水鏡とからはイマイチの評価。膝をついて背を押さえる魅希に駆け寄る音遠は、烈火達に視線を向けると声を張り上げて向っていった。


「貴様らああ!!」


音遠と烈火の攻防が始まる。それを離れた位置で見ている水鏡と。すでに音遠から冷静や余裕といった色は消え失せ、この戦いに必死になっている。


「君にはわからないだろう、あの方のカリスマ性が!!いずれ、お前達は紅麗様の災いとなる!!ここで私が食い止める!これ以上は進ませない!!それが…十神衆音遠―――私の役目だ!!」


鈍い音がし烈火が吹っ飛ばされる。すぐさま振り返り水鏡とに向って音遠は笛を振るった。


「前奏曲!!」


向ってくる音を水鏡は右に避けて楽に交わし、も軽く宙をジャンプして水鏡の隣に着地する。楽に交わした水鏡とに音遠は驚きの表情を隠し切れないで居た。水鏡はそんな音遠に説明するように口を開く。それから話されたことは、音遠の技である鎮魂歌、前奏曲、協奏曲、狂詩曲、小夜曲、遁走曲の6つの技の説明。1回ずつ見ただけで水鏡は音遠の技を全て見切ったようである。


「以上…訂正はあるか?」

「(…水鏡先輩やっぱり凄い!それを分かった上で右に避けたんだ…。あたしとりあえず上に跳んだら避けれると思って飛んだだけだったんだけど何か言ったら雰囲気ぶち壊しそうだし、黙っとこ…!)」


冷や汗を浮かべる音遠。ギブアップを、勝てないと弱音を吐く魅希と亜希。もう駄目だといわんばかりに涙を浮かべて身体を震わせる2人に暫しの沈黙。しかし音遠の目は死んではいない、未だ諦めようとせず烈火や水鏡、の方へと向って歩を進める。そんな音遠に誰よりも反応したのは烈火だった。


「なっなんだよォ!!まだやる気か!?もういいからそろそろやめんべーよォ!!やっぱ女とやんのはやりにくいんだよっ。これ以上ケガしたくねーだろ!?」

「男女差別反対」

「そんなこと言ってもやりにくいもんはやりにくいんだよ!」

「甘いな。もっとこらしめるべきだ」

「………おめえケッコウ根に持つタイプね…」


冷めたような軽蔑するかのような目で見るに烈火は一瞬うろたえるがすぐに持ち直して言い返す。続いて青筋を浮かべつつまだやる気な水鏡には烈火は冷や汗を浮かべて返事をした。歩を進めていた音遠が、ぴたりとその場で立ち止まる。言い合いをやめて、烈火、水鏡が音遠の方へと向き直れば音遠はゆっくりと口を開いた。


「…私は紅麗様を命を賭けても守る事を願う…あの方は可哀想なお方なのよ…母君を奪われ…紅様を奪われ…そしてその美しいお顔すら奪われていった…お願い……これ以上、彼を苦しめないで……」


音遠の浮かべた悲しげな表情、頬を静かに伝った涙。儚くて兎に角美しかった。しかしそれも一瞬で消え去り、音遠の胸元にある魔導具の核が光りを放つ。


「私の技はあと1つだけある……私の命を使い、この会場ごと吹き飛ばすくらいの力のある音…葬送曲!!」


音遠の周囲から只ならぬ力は溢れ出す。音遠の周囲を纏っていたそれ、力の余波が外に漏れ四方八方に飛び出して行けば、当たった物や人を破裂させ観客達を混乱させた。止めようと駆け出した魅希と亜希だがそれは球状の結界に阻止される。結界の中で音遠に言葉を投げ、涙を流す姉妹2人を横目に音遠は静かに優しい笑みを浮かべた。


「へっ…どーするよ水鏡、。あんなバチバチいってちゃ迂闊に近付けねーし…やべーよな…」

「(…走ることしか出来ないあたしがどうか出来る状態じゃない、よね………空神があったら、あたしにも出来ることあったんだろうけど…)」

「悩んでいるな、烈火?」


己の無力さ、そっと包帯を巻く右腕を握れば隣から水鏡の声が聞こえては俯いていた顔を上げて水鏡の顔を見上げる。視線は真っ直ぐ音遠に向けられていて、その表情は烈火のように悩んだ様子は欠片もなく、すでにどうするか決めているようだ。


「おまえは音遠に感情移入してしまった。”俺と似ている”とな…。しかし…やらねばやられるのが現状だ。僕は容赦しない」

「!」

「水鏡…何する気だ!?」

「”汀舞”」


水鏡は静かにそう言えば音遠の足元から無数の鋭利な氷の柱が飛び出す。その一本が音遠の胸元の核に当たれば罅が入り宝玉は砕け散った。宙を浮いている音遠の身体が傾き、地に倒れようとする。音遠を待ち受ける氷の柱は音遠に向って生えたまま消えようとしない。つまりこのまま放って置けば音遠は見事に串刺しになるわけである。咄嗟のことに目を見開き思考、行動も停止したの横を烈火は全力で駆けて行った。


「音遠ーーーっ!!!てめえはやな奴だ!ムカつくし大キライだ!!でもおめえは………っ!!死なせねえ!!死なせねえぞ!!!」


烈火の右の二の腕に新たに浮かぶ円の文字。リング上に5匹目の竜が現れた。その竜が一直線に音遠へと向っていく。魅希と亜希の悲痛な叫びが会場に響き渡る。酷くその時は冷静でいた。確信はないが、の勘が烈火なら何とかしてくれると言っていたのだ。目を瞑ったり目を背けることもせず、真っ直ぐその竜の後を目で追う。


「あ…」


周囲の氷の柱は粉砕され、地面に座り込んでいる音遠の周囲には綺麗な球状ではない、角々とした何かが守るようにしてあった。それが新しい竜の能力で炎の結界だという。円の作った結界が消えると竜本体自体も薄くなって消えていった。足音が聞こえ、まず反応したのは。続いて烈火、水鏡とそちらへ視線を向ければ表情を歪ませてそこに立つ音遠の姿。


「なぜだ…なぜ助ける!?この上、生き恥をかかせるつもりか!!」

「……てめえはすげえムカつく!でも…腐っちゃいねえ!寝覚め悪いよ!てめえが死んだら泣く奴いるんだぜ」


鼻の下を人差し指で擦って笑う烈火。刹那、音遠にしがみ付いて泣く魅希と亜希の姿があった。同じく静かに涙を流した音遠には小さく笑った。何だかんだ、妹思いな音遠の姿、この爽やかな幕の閉じ方にどうもドラマを見ているような気分である。そして、辰子の火影の勝利の宣告が会場中に響き渡った。五月蝿いくらいの声を上げて勢いよく挙手する烈火、相変わらず呆れたような表情を浮かべる水鏡の隣ではのんびりと烈火の様子を見ている。すると烈火は行き成り振り返りと水鏡の両手を纏めて引っ掴んでがっちり握れば眩い笑顔を浮かべて言うのだ。


「水鏡!!!!やったな!俺達!!」

「………。吉田栄作みたいにアツイ奴だな…」

「(水鏡先輩耳まで真っ赤!ちょ、可愛いんですけど…!こっちまで照れる…!)」


水鏡のいつもは見せないような赤面に、少々挙動不審気味のは視線を斜め下へと向けるのだがすっかり水鏡と同じく耳まで赤くしていた。それに気付かず烈火は水鏡との肩をばんばんと容赦なく叩く。試合開始前には考えられないようなじゃれ合いを見せる3人に火影陣には子を見る母のような優しい笑みを浮かべる。それからの流れはとても早いものだった。瑪瑙を助けたというジョーカーと会い、音遠が去り際に言っていた磁生を見にBブロックの会場へと移動し見た戦い、磁生の最期。まさに番狂わせ。こうして大会三日目を終えベスト8が出揃ったわけである。


水鏡の汀舞はわざとです、旧漢字なのか分かりませんが出なかったので似た感じを代用しました…!


















inserted by FC2 system