時の流れは早いものである。麗(音)と対戦後、は風子と烈火、そして陽炎から2日間試合出場禁止令を出された。理由は初戦の空との戦いから連続出場、毎晩遅くまでホテルで休まず修行をしている姿を見て、柳の治癒で身体の回復はしていても精神の疲れは取れない。故に決勝戦に備えて体力温存をするようにと言いつけられたわけである。鎖悪架子との試合は不戦勝で火影の勝利、その日は昼から夜まで修行をし、就寝はホテルで済ませた。翌日の麗(魔)の試合は火影陣から観戦し、その後深夜遅くまで修行に励んだ。ぽかぽかと、暖かい日差しに目が覚めて周囲を見渡せば太陽が真上にあった。携帯で時刻を確認すれば昼の13時を少し過ぎた頃、どうやらまた知らぬ内に森の中で眠っていたらしい。ぼんやりとした目をを擦り上半身を起き上がらせて大きく伸びをした。


「ん、…ふあー…よく寝たなぁ」

「気持ち良さそうに熟睡じゃったなぁ」

「!?」

「そんな警戒せんでも何もせんわい!どうじゃ、”空神”は手懐けれそうかの?」

「!…おじいちゃん、空神のこと知ってるの?」


背後から聞こえた声に驚いて勢いよく振り返る。帽子にサングラス、可愛らしいにこちゃんのシャツに半パンにサンダル。元気で健康そうな老人が立っていたことに驚くも、続いて発せられた現在自分の右腕に装着されている魔導具の名を言われて更に驚いた。しかしが身構えることはない、彼女の勘がこの老人は敵ではないと判断したからである。


「知ってるも何も空神のことで知らぬことはないわい!…お嬢ちゃん、名前は何て言うのかの?」

「あたし?!おじいちゃんは?」

「ワシか?ワシは謎のジジイ…、とは火影の彼等には言ってある。名は虚空じゃ。このことはまだ秘密じゃぞ」

「ん?うん。で、虚空さんは何で空神のこと知ってるの?」


愉快そうに笑う虚空に首を傾げつつも用件へ。空神のことはまだ火影のメンバーにも言っていないのだ。知っているとしたら自分以外では紅麗ぐらいである。紅麗とも接点の無さそうなこの老人が何故知っているのか、気にならないわけがなかった。がそう尋ねると虚空はぴたりと笑うのをやめ、被っていた帽子とかけていたサングラスを外す。痛々しく刻まれた片目の古傷には息を呑んだ。


「…昔、火影がまだ若い忍者集団だった頃、里に二人の天才武器職人がおったんじゃ」

「?」


「彼らの創造せし武器、それこそが火影魔導具。一人は殺める為、もう一人は生かす為に魔導具を造り続けたんじゃ。正反対の二人じゃが、この二人が生涯に一度だけ合作した魔導具がある、それがお主の持つ”空神”じゃ!」

「……へぇー…?」

「反応が薄いのう!もうちょっといいリアクションしてくれてもよかったじゃろうに!」

「え、あ、うん?ごめん」


真剣な表情で説明する虚空だがイマイチ理解出来ないからすればだから何だ、そんな感じだった。故に微妙なリアクションを取ってしまったわけだが、虚空に突っ込まれて取り合えず謝罪をする。心の篭っていない謝罪に虚空は「もういいわい!」と不貞腐れたと思えばまた直ぐに真剣な表情を浮かべた。


「合作と言っても計画して造ったわけじゃのぅての、空神は前者の職人の作品で、その後に後者の職人が手を加えたものじゃ」

「んー…確かに空神って能力的には殺傷能力高いし、禍々しいんだけど、何かそんな酷くないって言うか、…何か難しいな」

「それは後者の職人が手を加えた結果じゃよ。手を加える前の空神は最悪じゃった。魔導具自体が意思を持つ上級魔導具の空神は血に飢えた化物じゃ、故に使いこなせる者もおらんかった。じゃから後者の職人が手を加えたのじゃよ、元の製作者は前者の職人故に完璧に毒気のない魔導具には出来んかったがだいぶ丸くはなった方じゃ。結果的に言えば、火影の中でも空神の使い手はなかなか現れることはなかったがの」

「え?何で?」

ちゃんは空神の能力、その代償、其の他諸々を知っていて、それでも尚空神を使用すると決心出来たかの?」


虚空の問いには黙り込んだ。確かに空神の能力は攻撃能力を持たないからすればとても魅力的だった。しかし空神を使用するまでには沢山のリスクがあった。少し気を抜けば直ぐに主導権は空神に移ってしまう。即ち、いつ魂を喰らわれ体を乗っ取られても可笑しくないということだ。空神を自分のものにするには空神を屈服させる必要がある。しかしその屈服させるのも中々上手くいかない。まず空神と相性が良くないといけない、次に空神の能力を使用するに当たってそれに耐え切れる精神力がないといけない。相性が悪かったり、精神力が弱ければその隙をついて空神は容赦なく術者の魂を喰らいに来る。そして何より空神を屈服させるまでは己の血を代価に差し出さなければならない。空神の長い触角の様なものが2本、毎度の腕に深く突き刺さるのは血を吸っているのだ。もしも上記のことを知っていたら?答えは決まっている、NOだ。絶対に使う気なんて起きるわけがない。


「そういうことじゃ。故になかなか使い手は現れず、今の今まで眠っておったわけじゃよ。じゃが己のものにすれば大きな力となるのは確かじゃ。ちゃんが紅麗の所と戦うに当たって勝つには必ず空神の力が必要になるじゃろう。時間がもう無い、急かすわけでも焦らすつもりもないんじゃが、出来るだけ急ぐんじゃよ」

「…うん、わかった!」

「良い返事じゃ!ではワシまだ用があるんでの、」


虚空はそう告げるとに手を振って走ってその場を去っていった。も虚空が見えなくなるまで手を振り見送れば、見えなくなったところで振っていた手を下ろす。ぐっと背筋を伸ばし深呼吸、そして右手を掲げて太陽の光りに照らせば核がキラリと光った。は口角を吊り上げて笑えば、それに答えるように核がまたキラリと光る。


「ねぇ、空神って虚空さんの知り合いなんじゃないの?」

《何でそう思うんだァ?》

「だって何かやけに詳しかったし、何か人じゃない感じしたから、もしかしてとか思ったり」

《ハッ!ここ数日で偉く勘が冴えて来たなァ》

「多分空神のお蔭だよ。自分でも空気に敏感になってきた気するしさ!これ絶対屈服出来る日が近付いてるってことだよね、もう時間ないからさっさとあたしをご主人様って認めちゃいなよー」

《確かに俺の影響があるんだろうけどなァ。まだに屈服される気もご主人様って決めたつもりもねぇぜェ。まァ、頑張ってみたらどーだァ?決戦だっけか、まだ日にちあんだろォ?》

「ケチ。いいよ、絶対二日後の決戦までに絶対屈服してやるんだから!よっし、始めるよ!どーんと来い!」

《ハッ!威勢だけは毎回いいよなお前ェ、今日こそは気ィ失うんじゃねぇぞォオ!》


魔導具の核が禍々しく光り、空神の長い触角の様なものが2本、の腕に深く突き刺さる。長く過酷なの戦いが再び始まった。









決勝戦当日。この日の前夜、はホテルに戻って睡眠をとっていた。今日の試合の出場は必須、最高で万全の体勢で試合に臨みたい。すっかり熟睡していたようで目が冷めれば大きく伸びをした。何気なく部屋の中を見渡してみるが何故か誰もいない。不思議に思いつつも顔を洗い、髪をいつも通り右耳の後ろで1つに縛る。黒の身体にフィットするへそが丸見えになる程短い丈のタンクトップを着、その上に口の広い、両肩が見えるくらいの半袖で白のTシャツを着る。Tシャツの丈もへそより上なので、お腹の部分は晒されているわけで、恥ずかしくてたまらない。最終日ぐらい、と風子が昨夜はさみで切ったりして勝手に新調したのである。そして黒のショートパンツを穿いてベルトを締め、韋駄天を履いた。最後に空神だけが入ったウエストポーチを腰に装着すれば静かに開いたホテルのドア。誰か戻ってきたのだろう、そう思い玄関へと向えば火影のメンバーが1人其処に立っていた。


「起きたのか」

「は、はいいい!(水鏡先輩だよ!ちょ、お腹恥ずかしい…!ダイエットしとけばよかった…!!)」

「皆は集中治療室の前にいる」

「え?治療室…?誰か怪我したんですか?」


ホテルを再び出て行こうとする水鏡の後を慌てて追いかける。水鏡が先に部屋を出て続いてが出ればドアは勝手に鍵が掛かる。歩き出した水鏡の隣に並んでが歩き出せば水鏡はゆっくりと口を開いた。


「最澄がジョーカーに刺されたそうだ」

「…は?」



















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