集中治療室につくまでの道程の間、は何故そういう事が起きたのかを水鏡から説明を受けていた。が全てを理解したところで集中治療室前につく。そこには暗く重い空気が漂っていて小金井は椅子に座って表情がない。


「どうして…?治癒の力をあれだけ送ったのに…こんな事くらいしか私、役に立てないのに…」

「姫は頑張ってたじゃんか!!そーいう言い方すんなよっ」

「…傷が大きすぎて治癒の力が間に合わないくらい、細胞が死んでいったんだ。確かに柳さんの責任ではない。」


治療室前で涙を流し震える柳。は思わず表情を歪めた。烈火と水鏡が柳に言葉をかけた刹那、大きな音に反応して皆がそちらを向いた。小金井が壁を拳で殴ったのだ。罅が入り、細かい破片がはらはらと地面に落ちる。


「そう…柳ちゃんの責任じゃない…俺だよ。俺が最澄をドームに誘わなけきゃ…こんな事には…」


小金井は悲痛な表情で涙を流していた。は水鏡の隣から離れると小金井の前まで歩を進め、ぺしんと軽く小金井の頬を叩いた。を見上げる小金井の表情は涙で濡れて痛々しい。指の平で流れる涙を拭ってやった後、小金井の頭を数回撫でる。そして真っ直ぐ、小金井の目をみては口を開いた。


「何で泣いてるの、最澄はまだ生きてるのに。泣いちゃ駄目じゃん、最澄が怒るよ?」

「…だって、」

「だってじゃないよ。最澄は薫君に泣いて欲しいんじゃないんだから、泣いちゃ駄目だ」

「………っ、」

「戦いを前に何をウジウジ泣いているんだ!!」


怒声のような大声に反応して小金井が勢いよく振り返る。もその廊下の先を見ると小さく笑みを零した。其処には最澄の仲間である、空のメンバーが立っていたのだ。


「…と、あいつだったら言うだろうなァ」

「空海…」


突如現れた空海の姿に小金井は小さくそう呟いた。空海の後ろには藤丸、南尾、大黒が揃っており、誰も最澄を心配しているような様子はなかった。大丈夫だと確信しているのだろう、笑みまで浮かべている。


「あいつは小金井を弟のように思っていた。誰に命令されたわけでもない!友をベストの状態で、戦地へ届けたいという最澄自身の決断だ!”君の所為で僕は死にそうだ”などと、あいつが言うと思うか!?なのに貴様はいつまで泣いている!!!最澄はそんな事をおまえに望んでいない!!!」

「………っ」


涙と鼻水を垂らしながら空海の言葉を聞く小金井は乱暴に強く目を擦って涙を拭う。いつもの表情を浮かべた小金井には笑みを零すと優しく頭を撫でた。小金井が顔を上げてに眩い笑みを向ける。それに答えるようにも笑みを零した。そして火影は歩き出した、最後の戦地である最終闘技場に向って。南口、閉ざされた扉の前で火影は立ち止まっていた。


「いくぜ、火影!!!」


烈火の言葉に強く拳を握る。必ず勝って、帰ろう。そう誓って。閉ざされていた扉が開き、目を瞑りたくなる程の強い光りが入って来た。烈火を先頭にその扉の向こうへと向かって歩き出す。


「南口より入場!!!火影!!」


火影と麗(紅)にライトが当てられていてあとは真っ暗である。騒がしい観客の声に一瞬表情を歪ませた辰子だが、すぐ表情を元に戻して証明をつけるように言う。今まで真っ暗で見えなかった闘技場だが証明が着き見えたものは、普通とは言い難かった。柱一本で支えられたリング、下の方が底の見えない大穴状態で落ちればまず助からないだろう。烈火の挑発的な言葉に反応し、は麗(紅)の方を見る。其処には大将の紅麗の姿がない。その後、子美によりゲスト三名、空海と亜希、月白の紹介がされた。今まで黙っていた麗(紅)のメンバー、命が一歩前へと出て口を開く。とは言えど面を被っているので口元の動きは見えないのだが。


「花菱烈火。紅麗様は今日、ここに来ないわ。残念ねえ…ホホホホ……」

「どういう事だ!!答えろ!!!」

「ホホホホ…だって紅麗様がいらっしゃる必要などありませんもの。麗(紅)先鋒”呪”!!この男一人で、あなた方は冥界へと旅立つのです」


命がそう告げれば仮面の様なものを被ったガタイのいい男が一人、命よりも前へと出る。挑発に乗りやすい烈火、怒りに震えながら言い返そうとしたところ、後ろから土門が烈火の頭を掴んで横に避けて前へと出た。烈火は気の抜けたような表情を浮かべる。


「なめんな。俺達はなあ!!!今まで死ぬギリギリの大喧嘩してここまで来たんだ!!ハンパじゃなかったんだよっ!!!なんでか!?それぞれ理由は山程あるけどよ!!負けられなかった!!一番にならなきゃ意味なかったんだよ!!!”出る必要がねえ”だと!?」

「土門!!」

「降りて来い、呪!!俺が火影の底力見せてやらあ!!!」


土門は制止も聞かずにリングへと降りた。麗(紅)、正確には呪の方を見て怒鳴る。呪も何も言わずにリングへと降りればモニターには呪VS土門と顔写真付きで表示された。いよいよ決勝戦の試合が開始されようとしている。


「石島くんファイトー!」

「おう!よく見とけよ!」

「了解!」


リングに立つ土門に向って笑顔と一緒に目一杯の声を張り上げて応援の言葉を投げる。顔だけこちらに振り返り歯を見せて笑った土門に、同じく歯を見せて笑っては敬礼をした。笑顔の下では、ただ土門の勝利と無事を祈るばかり。虎柄の衣装を身に纏った十二支の審判、虎葉がマイクを片手にコールする。


「火影、土門―――。麗(紅)、呪戦―――始め!!」


合図直後、呪が速攻で土門に襲い掛かる。土門の攻撃は呪には聞いておらず土門だけがダメージを受けているような試合だったが、謎のジジイ、虚空が現れ事態は急変する。以前土門が虚空から貰ったという魔導具を試合途中に事故で飲み込んでしまうが、結果その事故のお蔭で魔導具”鉄丸”の力を発動することが出来、呪の魔導具”縛呪”に身体を乗っ取られそうになる危機もあったが、縛呪を自力で粉砕して勝利を収めた。まず火影の第一勝。大した怪我もなく戻ってきた土門には安堵の息を吐いた。今は戦う戦士と言えど、元はただの高校生。痛々しい生傷なんて似合いはしない。リングから戻ってきた土門と烈火が交わしたハイタッチがやけに大きく響いて聞こえた。その後、今まで姿を現さなかった紅麗が現れ、続いて第二試合が行われようとしている。


「僕が出よう」


前へと出てきたのは水鏡、リングへ降りようとする水鏡には慌てて駆け寄って声をかけた。顔だけこちらを振り向く水鏡、高い位置に結んだ柔らかい髪がふわりと揺れる。改めてみる水鏡の顔立ちは矢張り美しく綺麗だ。胸が高鳴り、頬が赤くなっているだろう、しかしは気にしないふりをして言葉を繋いだ。


「頑張ってください!」

「ああ」


ひらりと優雅にリングに降り立つ水鏡。うっとりとその姿を眺めていれば向こうは戒という人物が戦うようだ。審判も虎葉から白蛇と文字の書かれたヘアバンドをした里巳に変わる。里巳の自己紹介「22歳っ、水鏡命でーっす!!」の言葉に反応してがリングへ降りようとしたのを必死で制したのは風子と土門、を止めるのがどれだけ大変だったかは二人のみが知る。が里巳を睨みつけている間に烈火と虚空の間で何かやり取りがあったらしい、虚空が何かをして烈火は八竜を出せなくなったのだ。火竜が出せないということは烈火からすれば絶体絶命のピンチである。「ついてこい」そう告げて闘技場を後にする虚空、来なければ永遠に火竜は戻らないという虚空の言葉に動揺を隠せないでいる烈火。そんな烈火にまず声を掛けたのは風子だった。


「とられたら取り返すの!帰るの待ってるからさ」

「あのジジイが何者で、なに考えてるかは知らねーがよ。全くの敵とは思わねーぞっ!」

「それまで俺達がくいとめてるよっ!兄ちゃんの出番なくさないようにさ!!」

「だから安心して行ってきなよ!大丈夫、里巳なんて奴にはあたし負けないから」

「おめーら…の最後のやつはいらねぇ気がすっけど…頼むぞ!!すぐ帰る!!」


風子に続いて土門、小金井、がそう告げれば烈火はの最後の言葉に呆れたような表情を浮かべるもすぐにいつも通りの表情を浮かべて頷いた。そしてリングの方へと視線を向ければ、戒と向き合っている水鏡に向って声を上げる。


「水鏡!負けたらオシリペンペンだぞ!」

「事情はわからんが早く行け」

「ちょ、水鏡先輩にそんなことさせないから!お尻ぺんぺんとか先輩に手出したら花菱くん容赦しないよ!」

怖ぇー!水鏡は愛されてんな!」

「ちょ、花菱くんのアホー!!」


決して烈火の方へ振り返らずに素っ気無く返した水鏡。しかしはそうはいかず、烈火の言葉に食いついて言い返せば満面の笑顔で返された言葉に一瞬にして林檎のように耳まで真っ赤になった。恥ずかしさのあまり声を上げて思いっきり烈火の背中を叩けば烈火は「痛ぇ!!」と飛び跳ねて叫ぶ。赤面したを横目に背中を摩りつつ、柳の方を見れば親指を立てて笑えば虚空の出て行った扉へ向って走っていき、闘技場を後にした。リングの上ではミネナルウォーターを閻水にかけて刃を作り、戒も武器を構えて戦闘準備は整った。


「決勝戦第2戦!!水鏡VS戒!!始め!!」





















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