烈火は神経を研ぎ澄まし手甲に砕羽を、は憤怒の表情で神慮伸刀を構え、紅麗は憎悪に満ちた瞳で紅を体から生み出し、真っ直ぐと森光蘭を見据えている。少し離れた所では緋水を抱いたまま項垂れ悲しみに浸る風子、紅麗を見守る雷覇に、頭上から降ってきた小さな岩の瓦礫の破片に頭をぶつけるジョーカー、何かをするわけでもなく森光蘭を見ているだけの煉華、残り二体だけになった森光蘭は顔中に冷や汗を流して目を見開き烈火、紅麗、を見ていた。刹那、同じタイミングで烈火、紅麗、が地を蹴り森光蘭に襲い掛かる。


「何共闘してやがる!!馴れ合ってるんじゃねえよ蟲がぁ!!!」


球体の森光蘭は絶叫を上げ、針のように突起しているものを二つ伸ばし向ってくる烈火とに其々襲い掛からせるが烈火は炎の刃で受け止め、も神慮伸刀で受け止める。其の隙と言わんばかりにもう二つ突起したものが烈火との顔面目掛けて襲い掛かってくるが、烈火は歯でがっちり噛んで受け止め、は空神で周囲を爆発させ粉砕する。


ぐんごっへほんがはんあろ、あづはへめーば 順序ってもんがあんだろ、まずはてめーだ

「アンタの言葉に耳を傾ける筋合い無し!」


顔だけの森光蘭は地を這い蹲ってまるで蛇のように追いかけてくる紅麗から必死に逃げる。肩から紅の炎を出し手を突き出して森光蘭に止めをさそうとした瞬間、森光蘭を庇うように両手を広げて紅麗の前に立ちはだかる煉華。一瞬、煉華が紅に見えた紅麗は動きが固まり、煉華は紅麗の体に炎の矢を突き刺す。地面を滑って飛んだ紅麗は紅の存在を確かめるように炎の紅を肩から出した。


「お迎えに参りました、森様。ここより撤退致しましょう」

「おお!!まっておったぞ、葵!!」


突如現れた前髪の長い頬に十字架のある人物、葵。葵の言葉に森光蘭は表情を明るくすると球体の森光蘭は口からレーザー砲のようなものを岩の壁に放った。破壊された岩の壁、大きな岩が落下して来、本格的に崩れ始めた封印の地。煉華の炎の矢で腹部から出血する紅麗には落下してくる岩の瓦礫を避けながら慌てて駆け寄ると紅麗は憎悪に満ちた瞳で森光蘭を忌々しそうに睨む。


「森……光蘭ん………」

「また会おう、紅麗、烈火、!!貴様らが生きてここから出られたらの話だがね」


煉華の腕に巻きつき大きく口を開けて上からものを言う森光蘭。すかさず烈火が森光蘭に攻撃をしかけようとするが球体の森光蘭に襲い掛かられ体に傷を負い吐血する。は空神を森光蘭に向って突き出し空気の塊を放つ。其の隣で立ち上がった紅麗も炎を放つのだが、空気の塊や炎が森光蘭に当たる直前に上空より巨大な岩が落下し、まるで森光蘭達から守るように岩にぶつかり消し飛ぶ空気の塊と炎。森光蘭は口角を吊り上げる。


「…落盤が我々を炎と空気の塊から守る盾となった!これは…運命の女神も私に微笑んでいるのだろう。残念だったな三人共!!!」


森光蘭の高笑いが響き渡る。静かに消えていった森光蘭、葵、煉華の姿を見えなくなるまで睨み見ていた烈火、紅麗、。残ったのは球体の体をした森光蘭の分身。止めどなく巨大な岩の瓦礫が落ちてくる中、森光蘭は笑う。


「くひひひ…っ、私と海魔が共存する”本体”は無事脱出した!!本体の私はまた力を蓄える。治癒の少女を捕らえ、食す!!そしてその時こそ!!究極の魔導生命体、”天堂地獄”は完成するのだ!!!馬鹿共が!!逃げられてやがるぅ!!ぎゃはははははは!!!さ…て!本体が少しでも楽になるように……一人でも多く殺しておこう!!緋水ちゃんのようになあ!!天堂地獄!!万歳!!」


襲い掛かろうと標的に向って襲い掛かろうとする森光蘭。刹那、森光蘭の目に韋駄天で一瞬にして移動したの姿が映った。森光蘭の顔が引き攣るよりも前にの勢いを殺さず乗せた鋭い蹴りが決まる。後方に吹っ飛ぶ森光蘭の体、その場に着地したの表情には怒りの色だけがあった。地面に着地した森光蘭がに襲い掛かろうと踏み出せば鋭い刃が森光蘭の口から飛び出す。森光蘭の背後には神慮伸刀を構えた風子が立っていた。


「…ァが?」

「…緋水…私、生きるよ。戦うんだ。神慮伸刀、もらっていくね…おまえのキモチ…もっていきたいから…!!」

「おびょれええぇえ」


風子は縦に神慮伸刀を斬り上げれば真っ二つに両断される森光蘭の体。仕返そうと森光蘭は攻撃態勢に入ろうとするが、目の前には拳を握った烈火の姿。烈火は己の拳を見ながら森光蘭に言う。


「死ぬ前に本体に伝えてやれ。”すぐ会いに行くぜ”」

「ゴぶふっ…」


力一杯、渾身の力で森光蘭は烈火に殴り飛ばされる。宙を吹っ飛びながら次に森光蘭が目にしたのは額に一つだけある瞳を閉じた一匹の火竜。ゆっくりとその瞳が開かれた時、森光蘭の体は炎に焼かれて消滅する。しかし目玉だけがしぶとくも残り、必死に逃げようと地面を這うが其れは紅麗の足によって踏み潰された。より大きな瓦礫が落ちてき、地面に亀裂が入り始める。紅麗は踵を返すと元来た道を辿るように歩き出した。


「…行くぞ…」


紅麗の後ろを雷覇、ジョーカーが続き、も追いかける。途中、雷覇が風子の方に振り返っているのを見ても振り返った。涙を乱暴に拭い烈火を見て何時もの明るい表情を浮かべている風子、親指を立てて歯を見せ笑う烈火。二人のそんな姿を見て、は直ぐに前を向き直り紅麗の後ろを追って走った。今まで以上に激しく崩れ落ちてくる瓦礫、元来た道を行きより早いスピードで辿っていき砂埃の舞う中、紅麗を筆頭に雷覇、ジョーカー、が地上に出る。先に地上に出ていたのか柳を寝かした傍に立っていた土門、小金井、水鏡は驚いた表情で紅麗を見ていた。


「紅麗……」

「なんでてめえが中にいるんだ!?花菱達はどうしたぁ!?」

「何で…姉ちゃんが紅麗と…!?」


小金井の言葉に紅麗に向けられていた視線が全ての方へと向く。しかしはにこりとも笑うことなく冷たい無表情で火影の面々を見ていた。紅麗達が地上に出てきたところで入り口が崩れ落ち完全に塞がる。土門は開いた口が塞がらず、小金井はその場に膝から崩れた。しかし絶望に染まった表情も直ぐに吹き飛ぶことになる。虚空の強烈な一発が地上から天へと向って放たれたからである。煙が上がる地面から姿を現したのは烈火と風子。


「バカ!!今ので頭に石落ちてコブできたぞ、ヘタクソ!!」

「文句言うな!!」

「烈火兄ちゃあぁあーーん!!」

「風子様ああぁあーっ!!」


地上に出てくるなり早速口喧嘩を始める烈火と風子。そんな二人に涙を流しながら飛びつくのは小金井と土門である。じゃれ合う四人を眺めながら水鏡は静かに笑みを浮かべると、いつの間にか目が覚めていた柳が烈火に飛びついた。涙を流しながら安心したように笑みを浮かべて抱きつく柳に顔を赤らめて照れている烈火。烈火達を一部始終見ていた紅麗が口を開いた。


「フン……おとなしくのたれ死ねば良いものを…また貴様の顔を見るとは…うんざりするよ」

「そりゃこっちのセリフだ!!だいたいてめーは”裏武闘で負けたから姿を現さない”って言ってたクセに!!」


烈火が怒りの表情を浮かべて紅麗に指を差して言えば、紅麗は長い前髪を指で退け隠れた右側の仮面を見せる。逆に刻まれた火影の印が其処に存在していた。紅麗は烈火達にその印を見せると前髪を退けていた手を降ろして言葉を繋ぐ。


「…森光蘭も貴様のように他の場所より逃げたろう。私はこれより奴を捜し求め、殺す!!貴様等はその後だ…!!」

「敵の敵は味方…ってのにはならねえって事か。三つ巴だな」

「”火影”の名を汚す無能共…我々は”裏火影”麗として戦う!!せめて…今この一時…互いの命有る事を喜び合っていろ」


踵を返し去っていこうとする紅麗には慌てて振り返り袖を掴む。足を止め振り返りを見下ろす紅麗、は臆する事無く紅麗を見上げて視線を交わらせると口角を少しばかり上げて笑みを浮かべた。


「今まで同行させてくれて有り難う御座いました」

「礼を言われる程のことではない」

「じゃあ…また、会いましょうね。紅麗さん」

「………。」


紅麗はに言葉の返事は返さなかった。しかし言葉の代わりと言わんばかりに袖を掴むの手を払い、優しくの頭を一撫でする。が小さく笑えば紅麗は前を向き直り今度こそ雷覇とジョーカーと共にその場から消えていく。その場に残された火影に降り注ぐよう朝日の光が放たれる。すっかり時間が経ち朝になってしまったのだ。全員の視線がに向けられているのを背中で感じながら、それでもは振り返ろうとしなかった。





















inserted by FC2 system