「ま、まあ!何で紅麗達と一緒に居たのか知らねぇけども無事そうで何よりだな!」


異様な空気の流れるとの間。其の空気を取り払うべく土門は無理矢理明るい声を上げ笑みを作り、に近寄ると肩に手を置いた。刹那、が獣も顔負けな鬼の形相でギロリと土門を睨みつけ勢い良く振り返れば、土門は表情を引き攣らせ真っ青になりの肩に置いた手を直ぐに引っ込める。只ならぬオーラを放つ、鈍い土門でもが今までにないほど怒り狂っているのは分かった。土門は烈火、柳、風子、小金井、水鏡の居る方へと振り返れば助けを求めるように目で訴える。風子と小金井は瞬時に明後日の方向を見て土門の視線は気付かない振り、柳はどうすればいいのか分からないのか落ち着きながく、水鏡は相変わらずの無表情、烈火は引き攣った表情を浮かべた。土門の視線が真っ直ぐ烈火だけに向けられ瞳で強く訴える。結局視線を逸らすことが出来なかった烈火は泣き出しそうになりながらに一歩ずつ普段の半分以下の歩幅で近付いていけば恐る恐ると声を掛けるのだ。


「あ、あのさ、…、何怒ってんだよ」

「…分かんないわけ?」

「え…(殺気が…!)」


思いもよらぬの返答に烈火の表情は固まる。全く心当たりがないからだ。の雰囲気がより一層冷たいものに変化すれば土門と烈火は寄り添い逃げ腰になり今にも背中を見せて走り出しそうだ。はずかずかと前へと踏み出せば土門と烈火の目の前に立つ。既に土門と烈火の瞳には涙が滲んでいた。


「確かにあたしは弱いし戦いたくないって弱音も吐いたけどさ」


が逃げられぬように強く烈火と土門の腕を掴む。其の細腕からは信じられない程の握力に土門と烈火の体温は一気に低下。据わった瞳、黒い影を背負い鋭く突き刺さる痛い殺気を土門と烈火に放ちながらはゆっくりと口を開いて言葉を発する。


「けどあたしだって火影の一員だって思ってた。其れはあたしだけ?あたしの妄想?違った?ざけんな糞餓鬼がァアアア!!

「「ギャァアアア!!(糞餓鬼っても同い年とか言えねぇええ!!)」」

「あんなわけの分からない物騒な武祭に参加までして命も賭けたし怪我だっていっぱいして空神の屈服だって勝つ為に毎日取り組んだのにそれでもあたしは火影でも何でもなくて除け者なわけ!?今更こんな馬鹿らしい戦いから遠ざけようとされたって意味無いっつの!あたしの手元に魔導具がある限りどうせ狙われるのがオチだし魔導具がなくたって武祭に参加した時点で襲われんのは目に見えてんじゃん!巻き込まないようにするなら最初っから巻き込むな!!」

「「(怖ェエエ!!)」」

「男っつーのわねぇ!!」


強く掴んだ土門と烈火の腕を更に掴む力を強めは心の内を怒鳴り散らした。真っ青を通り越して真っ白な顔色の土門と烈火。の迫力に完全に押されている。は瞬時に烈火の腕から手を離し土門の胸倉を引っ掴むとそのまま華麗な一本背負いを決めた。見事に吹っ飛び地面に転がる土門。普段なら絶対に出せないような馬鹿力が発揮されている、魂が口から半分抜けている土門を横目に烈火は完璧に恐怖の念を抱いている。の矛先が烈火に、向いた。


「ちょっと強引な方がいいんだよォオオ!!」

「ぶっほォオ!!」


の右ストレートが烈火の左頬に綺麗に決まった。受身すら取ること出来ずに烈火は見事に吹っ飛ぶ。は仁王立ちで未だ治まらない怒りを抑えつけることなく曝け出し、表情を歪めて腹の底から怒鳴った。


「あたしは!!火影じゃないの!?仲間じゃないの!?」


の言葉に烈火は目を丸くし掛ける言葉が見つからず暫しの間、黙り込む。土門もを見て呆然としており、風子や小金井や柳はの心情を読み取ったのか少しばかり複雑そうな表情だ。ピリピリと殺気だったまま治まる気配が一向にない、烈火は慌てて起き上がりに駆け寄り声を掛ける。


!違うんだ!お前が襲われたって聞いて、それで―――」

「だからちょっと強引な方がいいって言ってんでしょうがァアア!!」

「ぐほォオ!!」


の瞳の色が一瞬にして変化し、殺気だった鬼の目になる。駆け寄ってきた烈火に容赦ない回し蹴りを鳩尾に決めれば烈火は再び表情を真っ青にさせ冷や汗を流し吹っ飛んだ。地面に倒れ蹲る烈火に人差し指で差しは怒鳴る。


「あたしは戦いたくないって言った!それは認める!けどたった一言弱音吐いただけではいそうですかって引いて!ざけんな馬鹿ァアア!!無理矢理引き摺ってでも連れてけェエエ!!

「(無茶苦茶…!!)」


あまりにも無茶苦茶なことを言うに烈火はそっと涙を流す。起き上がった土門に振り返った、土門は自分の身に降りかかることを瞬時に悟ると真っ青になりその場から逃げ出そうと逃走を図る。しかし其れは無駄に終わった。逃げようとする土門、追いかけようとするの間に今まで傍観を決め込んでいた水鏡が立ったからである。怒り狂っていたも水鏡の姿を目にすれば冷静を取り戻し、纏っていた殺気や異様なオーラが一瞬にして消え去るのだった。


「この一件、烈火達は関係ない。全て僕が指示したことだ」

「…水鏡先輩が?」

「ああ。武祭には参加していたとはいえ、元々は無関係の人間だ。昨晩の襲撃で僕はこれ以上、君を巻き込むわけにはいかないと判断した。武祭に参加していた時点で顔は割れている、今後があらゆる目的を持った敵から狙われるのは予想が付いていた」

「じゃあ、何で…」

「守れると思ったからだ」


水鏡は真っ直ぐを見据え、はっきりとした口調で言った。の目が大きく見開かれる。すっかり今のからは先程まであった殺気や怒りの念は消え去っており、先程までのとはまるで別人のように烈火や土門の目には見えた。


「君自身が戦わなくとも僕や烈火達で守りきれると思ったんだ。だから僕は烈火達に昨晩の事を告げ、この戦いから遠ざけた。…結果的にを傷つけるだけの結果になってしまったがな」


水鏡はほんの少しだけ、困ったように笑みを浮かべてそう告げればの頬が見る見る内に赤く染まっていき、赤く熟した林檎が完成する。今にも湯気が出てきそうな程、真っ赤に染まったの顔。は頬の熱を冷ますように両手で両頬を覆うのだが一向に赤みも熱も消える様子はない。


「すまない」

「い、いえいえ!あたし全然気にしてないですから!!」

「「(絶対嘘だ…!!)」」


は両手を左右に勢い良く振って否定する。そんな姿を二人仲良く其々殴られ蹴られた箇所を押さえながら烈火と土門は心の中で揃って強く叫んだ。口から吐き出し言葉にして伝えず、何故心の中で叫んだのかというと、のやり返しが怖いからという単純な理由だった。


「あ、でも!」

「?」

「こ、これからは…置いてかないで下さいね、!」

「…ああ、約束しよう」

「っ、!」


視線を泳がせながらは水鏡に勇気を振り絞り今後も同行させてくれと伝えれば、水鏡はふわりと美しい微笑を浮かべて肯定の言葉を言った。目をきらきらと輝かせ、更に頬を赤らめ表情を緩ませるは誰からどう見ても水鏡病の重症者だ。すっかり機嫌の良くなってしまったは烈火と土門の方へ振り返れば幸せそうに緩んだ笑みを浮かべて「さっきはゴメンね」なんて言葉を口にする。土門と烈火は冷や汗を流しながら縦に何度も頷くことしか出来なかった。そして火影一同は仲良く横一列に並び、陽炎に天堂地獄破壊を失敗したが全員が無事であることを報告し、相変わらず大声を上げはしゃぎながらその場を去っていくのだ。





















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