「よし!とりあえず一番近えここだな!」


八神と化物達は空と月白、火車丸、餓紗喰に任せ、一番近くにあった建物まで掛けてきた火影。はふと、何気なく中央に建つ建物の周辺を埋め尽くしている水を見る。水とは思えないような水質、泳いで渡るのはまず不可能だろう。どうすればこんな水を作れるのだろうか、そんなことをぼんやりと考えていると同じではないにしろ、同様に水の水質の事を考えていただろう水鏡と、は目があった。


「どしたい、みーちゃん、?中入ろうぜ!」

「…ああ」


土門に声をかけられと水鏡の視線は直ぐに外され土門の方へと向かう。気にしないようにしても、やはり少しは気になってしまうのがの本音だ。普通に一緒に行動しているだけならまだ良い。ただ先程のように目が合ったりなんてすれば、どうすれば良いのかわからなくなってしまうのだ。何か声を掛けるべきなのだろう、ならば何を言えば良い?どちらにせよ、今の土門はファインプレーだった。は心の中で土門に拍手を送る。スタンディングオベーションだ。


「………。」


心の中でスタンディングオベーションを土門にするは、気付かなかった。無言でじっと水鏡が己を見ていることに。烈火が建物の扉を拳で殴りつけて開ける。手で押して開ければ良いのに、なんてことを思ったが口にすると微妙な空気になりそうだったので口にはしない。開かれた扉、建物内には大きなモニターが一つあり、その前に深くフードを被り顔を隠した男か女かも分からぬマントを纏った人物が立っていた。すぐさま戦闘体勢に入る風子と小金井と。しかし敵だということを否定するよう、人物は両手を胸まで挙げて顔を左右に振り否定する。両手を降ろし、人物は話し出した。


「ようこそ、要塞都市SODOMへ。このような間柄ではあるが我等は紳士的に君達を迎えよう。ついてはこの都市での君達の動き方を教えよう」


人物の声は低い、声の高さからして男だろうか。男はマントの中からリモコンを取り出しスイッチを一つ押すと、男の背後にある大きなモニターに地図のようなものが表示された。中央には縦長の建物、その下の所に現在地と書かれている建物が表示されている。


「これがSODOMだ。中央のタワーを囲むように幾つものドーム、施設が設置されている。そしてこのタワーの中に、佐古下柳がいる訳だ。”HELLorHEAVEN”我等が神、森光蘭様の巨城だ!!」

「あの湖の中の塔だよね!?サンキューおっちゃん!!!」

「まて、おチビ」


男から柳の居場所を聞くと満面の笑みを浮かべて建物を出ようと駆け出した小金井。だが、すかさず水鏡が小金井の首根っこを掴みくい止める。気が早く人の話を最後まで聞かない小金井は、やはりまだまだ子供だと言えるだろう。水鏡は小金井の服から手を離すと鋭い視線を男へと向ける。


「動き方を教える、と言ったが…あの塔に行く方法が、僕達にも入手できるという事だな?」

「行く方法?泳いでいきゃあいいべよ!」

「んだんだ!!やっぱあそこか…そう思った!」

「無理だよ」


水鏡の言葉に当然のように泳げば良いという烈火に、同意を示す土門。は少々呆れながらも烈火と土門に無理だと告げれば、烈火と土門は首を傾げての方を見る。するとが解説するよりも早く、水鏡がの言葉を肯定した。


「そう、不可能だ。あの湖の水質を見なかったか?コールタールのように粘っていたよ」

「(…コールタールって何…)」

「人間が泳げる水質ではない。ましてやこれだけの要塞の心臓部!例えば僕が水面を凍らせて近づけたところで、セキュリティシステムが作動する事は明らか。あれは日本の古城における”堀”だ。まともに目指せば死ぬぞ」

「(空神で空気を圧縮して足場を作って目指す…ってのもやっぱセキュリティシステム作動するんだろう、なぁ…)」

「ただ―――あそこには柳さんがいる。入る方法はある、という事だよ」


の胸がちくりと痛む。水鏡が柳に好意を抱いているのは明らかであり、にとって柳は恋のライバルとも言える存在だ。だからと言って柳のことが嫌いなわけでもなく、逆に好きなくらい。それに柳が好きなのは花菱烈火、ただ一人だ。水鏡が柳のことを好きでも、二人がくっつくことはあり得ないことであるが、それでも水鏡の口から柳の名前が出ると、こうして嫉妬してしまい胸が痛む。は胸の痛みも苦しみも振り払うように頭を左右に振った。


「そう、物事には順序というものがある。それでは”ルール”を説明しよう。CDデータ―――これが要塞に五枚ある!!それを一人一人が一枚ずつ捜さねばならない」


男はマントの袖から一枚のCDを取り出して火影に見せるようにチラつかせながら説明を始める。


「同じ人間がディスクを立ち上げると、ウイルスが流れるようにプログラムされている。おっと、ちなみにこいつは空のCD−Rだよ、念の為……そして五枚のディスクデータを合わせると…HELLorHEAVENの入り口!進入方法!電子キーアクセスNo.!様々な事がわかるようになっている。つまり…個別のバトルオリエンテーリング!!一人一人がそれぞれの施設に向かいDISKを捜す!!当然、DISKの無い所だってあるかもしれんがね」

「…ナンカ怪しい!!ずいぶんペラペラと親切に教えてくれすぎじゃねーか?」

「ククク…親切とは勘違いもいいところだ。こちら側としても君達の存在は楽しみなんだよ……これはゲームなんだ!!ゲームはルールがあるから成り立つのだ!!数多の施設の中には裏麗の人間達は存在する!君達と戦いたがっている者が何人もまっているのだ!!データ自体を消去するのが障害としては一番簡単だがね…希望に向かってつき進む君達を絶望させてみたい。何より…森様がもう一度……できれば君達に会いたいとおっしゃっていたのだ。治癒の少女と同化した…完全体の私を見せたい。……とな」


森光蘭が言っていたという発言に烈火の表情が一変する。歯を食いしばりぎりっと音を立て、冷たい視線を男に向けている。そんな烈火を抑えるように風子は一歩前に出て烈火の前に手を出すと、風子は自信満々に言葉を吐いた。


「そうだなァ、集団でいられるより分断させた方が、あんた達もこっちを狙いやすいもんね。そっちにもメリットがあるルールな訳だ!上等!のってやろうじゃん!!」

「エサぶらさげて個別化させれば、俺達に勝てるってか!?なめんな!!」

「余裕丸出しなの、絶対後悔させようね!!」


風子に続いて土門、小金井が口角を吊り上げて言う。火影の気持ちは決まっていたのだ。森光蘭側が提案してきたルールに乗ることにした火影は、全員向かい合って輪になり、握った拳を前へと突き出す。そして少しだけ拳を振り上げると振り下ろすと同時に己の出したい指を出した。





















inserted by FC2 system