ポチを殴り飛ばしたは床に着地すると同時に右腕に纏わせていた空気を圧縮させていたものを消すとマリーへと向き直る。マリーは口を噤むと土門の動きを封じていた束縛鞭天を離して一度手の中へと戻す。は暫くじっとマリーを見れば、先程まで怒り狂い血走った目と表情しか見せなかったがマリーに向かってにっこりと笑みを浮かべて見せた。


「それはそうとディスクって何処なんですかね」

「………ここには無いわ」

「そうですか。…じゃあマリーさんをぼっこぼっこのけちょんけちょんにして水鏡先輩を救出して貯蔵庫行きますね!」

「………。」


笑顔でとんでもないことを言い出したに土門の表情が引き攣る。笑顔でマリーに嫉妬してから一度も言わなくなったマリーの名をさん付けで呼ぶ行為、そして敬語。その全てが土門を恐怖に陥れるには充分だった。先程からにこにこと笑顔を浮かべてマリーを見ている。マリーは顔から表情を消すと土門とを見ながら、静かにポチに言った。


「ポチ…殺す事を許すわ、首を斬りなさい」


刹那、のすぐ真横に現れたポチ。は表情から浮かべていた笑みを消し去ると冷たい目でポチを見る。ポチは片手で斧を持ち、それを高く振り上げて雄叫びを上げながらへと振り下ろす。


「オォオォオオォォオ!!!」

「あんたの相手は…」

「!?」

「石島くんの方でしょーがぁあああ!!」


振り下ろされた斧はに当たることなく宙で止められることになる。斧に向かって右手を翳す。空神の空の文字が刻まれた宝玉がきらりと光る。目には見えない空気が圧縮されて出来た空気の壁が、を守りポチの己を食い止めていたのだ。そしては再び空神で右腕に空気を纏わせて強化するとポチをぎろりと睨む。


「ピッチャー第一球ぶっ放しましたぁあぁあああ!!」

「おお!!」


の拳はポチの頬へと決まり、ポチの体は土門の方へと吹っ飛んでいく。土門は力強く返事を返せば、はにぃっと口角を吊り上げて笑みを浮かべた。飛んでくるポチの体、そして己の拳の範囲に入ったなら土門は渾身の一撃をポチの顔面に叩き込む。受身をとることなく地面に倒れたポチの体はぴくりとも動こうとしない。は土門に向けて親指を立てて笑えば、土門も同様に笑みを浮かべてに親指を立て返す。そしてと土門がマリーの方へと振り返れば、強く束縛鞭天を持つ表情を険しくしたマリーが居た。


「よ…くもシロだけじゃなくてポチ…人の息子と亭主をやってくれたわね………!!許しません!!」

「(”息子”、”亭主”。へへへへ変態家族だ!!!)」

「束縛鞭天!!!動きあるものを封じよ!!!」


マリーの束縛鞭天が勢い良くへと向かっていくが、束縛鞭天の先がに触れる前には右掌を前に翳す。刹那、束縛鞭天が爆発して粉々に粉砕されて煙が起きる。は束縛鞭天の周囲を爆発させたのだ。プスプスと音を立てて煙を上げている束縛鞭天に腑抜けた表情のマリー。は歩を進めてマリーへと一歩一歩近付いて行く。


「次はオバサン、あんただから」

「あ……」


にっこりと笑みを浮かべる。だが先程と違うのはその背後には鬼がいるということと、から放出されているオーラが完全にどす黒いものだということ。マリーへの嫉妬の念は薄らぐ事無く健在らしい。ぞくりと反応し声を漏らしたマリー。そしてマリーの目の前に立ったが強く拳を握り、今まさに殴りつけようとした時だった。


「あぁん」


高く色気溢れる声を上げて、その場に座り込んだマリー。の拳が止まった。


「いい!!二人共いいわ!!もっといたぶってください!!!私…叩くのも叩かれるのも好き!!大好きなの!!!」


と土門が同時に何とも言えない表情に変わり、同時にがマリーを殴るにも殴れなくなった瞬間だった。









「とにかく水鏡先輩が無事で良かったです!」

「でもよ、ジョン!あそこまでする事なかったんじゃ?」

「その名で呼ぶな!!!あれでも物足りないくらいだ!」


真ん中に水鏡、その右隣に土門が歩き左隣にが並んで歩いている。フォックスはすでにのフードの中で顔だけを覗かせていた。はうっとしとした表情で水鏡を見つめており、土門はからかった表情であえて水鏡にとってのタブーである名を呼んで声をかける。水鏡は珍しく青筋を浮かべており怒りの表情を露にしていた。マリーの館から離れ、陽炎が待機している場所へと歩く、水鏡、土門。マリーの館では、先程まで水鏡が居た場所にマリーの姿がある。囚われの状態にあるにも関わらず放置プレイだとマリーが感じているのを三人は知りもしないまま、ただ歩き続ける。不意にフォックスがの頬を一舐めすれば、は緩んだ笑みを浮かべてフォックスを見て、そして一瞬水鏡の横顔を見る。再びフォックスに視線を戻したならはフォックスに頬擦りするように顔を傾けた。


「(やっぱ水鏡先輩って格好いい!大好きですっ)」

「?」


の心情を知らないフォックスは不思議そうにしながらも、ただひたすらの頬を舐め続けていた。



















「うっわ…何これ、形変わってるじゃん」

「ヘンなの」

「キモチ悪いったらないねえ」


陽炎が待っている建物まで戻ってきた、土門、水鏡。そこには既に陽炎、烈火、風子、小金井の姿があり、全員の視線は一点に集中していた。その姿を見て、小金井、風子は思わず言葉を零す。中央にあった森光蘭のような像がすっかり姿を変え、まるで繭のような形に変貌していたのだ。繭の糸のようなものが四方八方、壁や床に突き刺さり穴を開けていた。


「一枚目―――二枚目―――三枚目―――そして烈火の手に入れた四枚目のディスクで石像はこの姿になった。…薫くん」


陽炎が石像の変化を説明すると最後に小金井が手に入れたディスクを入れるよう促す。一番下の段のスロットに小金井が最後の一枚のディスクを入れる。すると石像の中心部、繭の部分に亀裂が入り、一気に音を立てて全てが崩壊していた。石像の瓦礫を避けながら土門と烈火が焦った声色で声を上げた。


「ぬがァ!!?崩れるぞ!!?」

「小金井!!何か間違えたんぢゃねーのか!?」

「違う。見ろ」


烈火と土門に静かにそう告げたのは水鏡だった。全員の視線が上へと向けられる。崩壊していった石像、落ちてきた瓦礫、そしてそこにのこったのは円形の目玉のような物の下についた鍵のようにごつごつとした突起したもの。丸い目玉のようなものは、此処にいる全員が見覚えのあるものだった。


「…この形…」

「天堂地獄!!!」

「でもおかしーね、何もおこらないや。………!」


風子の漏らした言葉に続き、森光蘭が手に入れた魔導具の名を口にする烈火。だがそれ以外は何も起こらないことに疑問を抱く小金井は、そう言いながら何気なくモニターへと視線を向ける。するとモニターに文字が浮かび上がり、全員がそのモニターに表示された文字に目を滑らせた。表示されていた文字は”次の英字を並び変えてお前達の運命をつくれ”と書かれており、その下の部分に”DISK1>A、DISK2>T、DISK3>H、DISK4>E、DISK5>D”と書かれている。瞬時に答えが何なのか分かったは呆れたように溜息を吐いた。相手を思えば、すぐに導き出せる簡単な答えである。


「ATHED?並び変えて単語つくれって事?」

「THE AD!!」

「HEAD T!!!」

「絶対ちがうと思う」


風子が不思議そうにそう言えば、烈火と土門がモニターに向かって己の答えの予想を宣言する。あまりにも声を張り上げて言う烈火と土門に小金井は少々の驚きと呆れの表情を浮かべて静かに小さな声で二人の答えを否定する。も小金井の隣でかなり呆れた表情で、どうしようもない気持ちにさせられていた。


「む!!?水鏡!!!」

「フン……」


烈火と土門が騒いでいる間にキーボードを押してモニターの言う火影の運命を打ち込む。DEATH、日本語訳で死を意味する英単語。天堂地獄のデザインをした石像が動きを見せた。勢い良く石像が真っ直ぐ下に落下し、目玉の下にある鍵のような部分が穴へと突き刺さる。刹那地響きが立って床が盛り上がり始めれば砂埃も立ちこめ、地響きや煙が晴れた頃には達の目の前に地下へと繋がる長い長い階段が見えた。、水鏡、土門、風子、陽炎の表情が引き締まり真剣なものへと変化する。そして少しばかり口角を吊り上げた烈火が静かに言葉を発した。


「見ろよ―――ラストステージへの入り口だぜ」


階段を下れば長い長い通路が見える。どうやら此処はあの湖の下らしく、水面下をつたう通路は周囲に見たところ曲がり角のないことから、HELLorHEAVENまで一本道のようだ。通路を歩きながらたわいのない話をする火影。すると突然、のフードの中に身を潜めていたフォックスが飛び出して水鏡の肩へと飛び移る。水鏡はフォックスに視線を向けると優しくフォックスの頭を撫でる。嬉しそうに目を細めたフォックスは水鏡の頬に擦り寄って、ぺろりぺろりと頬を舐めた。はそんなフォックスを微笑んで眺めているのだが、今までフードの中に隠れていたフォックス、突然の子ギツネの登場に驚かない人はと水鏡、そして土門以外いなかった。


「ちょ、!どうしたのさ、このキツネ!」

「何処で拾ってきたんだよ!?」

「うわー、いいな。俺にも触らせてよ!」


風子と烈火はフォックスを指差してを見ており、小金井は何故ここにキツネがいるのかは気にしていないのか、そっちのけで水鏡の肩に乗っているフォックスに手を伸ばしている。は風子と烈火に視線を向けると、何と説明したものかと「あー…」と声を漏らせば、暫く考え込んだ後、口を開く。


「飼うことにしたんだ、名前はフォックス」

「フォックス?」

「うん、フォックス」

「「「(ネーミングセンス…)」」」


がフォックスの名を口にすれば驚いた表情で聞き返す陽炎。は縦に一度頷きもう一度フォックスの名を告げれば烈火、風子、小金井の表情は一変し、三人揃って同じことを心の中で思う。陽炎はただ苦笑するしかなく、陽炎、烈火、風子、小金井の反応に土門は只々やっぱりそうなるよな、なんてことを思うのだった。そして目の前に扉が見えてくれば自然と全員の表情が引き締まる。その空気を悟ったのかフォックスは水鏡からの肩に飛び移ると最初同様にのフードの中に身を隠す。陽炎を先頭に扉の前で立ち止まる火影。


「…みんな…よくここまで頑張ったわ。私は…みんなを心から誇りに思います。そして願わくば―――勝利を手に入れましょう!!」


陽炎が扉の横に設置されていた小型の機械にDEATHとパスワードを打ち込みながら、後ろに立つ烈火、、風子、土門、水鏡、小金井にそう言う。そして開かれる扉、烈火を筆頭に火影はHELLorHEAVENへと足を踏み入れた。





















inserted by FC2 system