『ようこそ火影忍軍!要塞都市SODOMの観光はいかがでしたか?残念ですが、ここが最後の観光地、”HELLorHEAVEN”となりました』

「烈火…この声―――」

「葵だ」


HELLorHEAVENに入ったところで聞こえてくるアナウンス。それは聞き覚えのある声で風子が烈火に声をかけると、烈火は振り返る事無くアナウンスで流れる声の主の名を告げる。


『そこに八つのエレベーターがあるのが見えますよね?定員一名のエレベーター……各人お好きな所へとお入り下さい。止まる階は自動的に決まり、八つ全ての出口は違う。どのルートも最終的には最上階まで来る事ができます。今までの戦いで一人一人の力量を見て個別なら全滅も可能と見ました。…何人上がってこれるかな?今度は本気で殺しにいくよ』


「ざけんなよ馬鹿野郎!!!そっちこそ頭洗ってまってやがれ!!!」

「(頭?)」

「俺たちゃ火影!!最強!!!無敵だ!!!全員でてめーの前に現れる!!!姫は―――返してもらうぜ」


葵の言葉を強気で返したなら、烈火は柳を取り返すことを宣言した。何とも格好いいシーンではあるのだが、は烈火の言葉の間違いがどうも頭にひっかかり複雑な表情になってしまう。これで言葉もあっていれば文句なしなのだが、こうして妙に何処から必ず抜けている点は、やはり火影らしいというのか。それともただ火影には馬鹿が多いだけなのか。何とも微妙なところである。


「キョワ〜〜〜。烈火、かっちょい〜〜〜っ」

「お!?そうかい!?」

「ほれ直した!!さすがリーダー!!」

「おお!?そうかいそうかい!!」

「洗うのは頭じゃなくて首だぞ、馬鹿だな」

「あ゛ーーうるせえうるせえうるせえうるせえ」

「(やっぱ首と間違ってたんだ。いやいやいやそれくらい覚えてようよ)」


風子と小金井に煽てられて烈火の表情は緩いものになり自然と声も明るいものになる。だがすぐに水鏡の真顔での頭ではなく首という訂正が入れば烈火の表情は一変し青筋が浮かんだものへと変化する。成り行きをただ見守っているはそっと心の中で烈火に突っ込みを入れてみた。烈火は息を吸い、吐き出して心を落ち着かせたなら腰に両手を当てて睨むように横目で水鏡を見て言う。


「水鏡!てめえはホントやな奴だ!!初めて会った時からずーっとそうだ!冷たいしよ!!お前もだ、風子!!いつまでも女っぷり出てこねえ!!そんなんじゃヨメさんになれねーぞ、男女!!!」


水鏡に続き風子にも己の言葉を掛けた烈火は、続いて小金井、土門、、陽炎の方を振り返り息を吸った。水鏡と風子同様に達にも何かを言うつもりらしい。


「小金井ナマイキすぎ!!小せえんだから牛乳ゴクゴクのんで身長のばせ!2mくらい!!は水鏡馬鹿!ちっとは水鏡以外の俺達の心配もしろ!!フォックスは俺にも懐け!!土門はゴリラ!!!」

「んだとてめーっ!!!」

「(水鏡馬鹿…)」

「母ちゃんやさしく甘えさせろ!!たまにはキレイな服きれ!!でもみんな大好きじゃ!!!勝手に死ぬなよ!!以上!!!」


力強く握り拳を作り、笑みを浮かべてそう宣言した烈火。有り難いはずの大将からの言葉なのだが、、風子、小金井、水鏡は何とも言えない心境だった。土門に限っては反抗の言葉を掛ける余裕もないのか隅っこで背を向けて膝をついているぐらいである。そして烈火のくれた返事を、順番に返す達。


「フ………私もあんた好き!…なのかな?バカで短気でわがままで礼儀知らずで」

「俺も好き!…のはず?うるさいし柳ねーちゃん一人占めするし起こるしどなるし大食いだし」

「あたしは好きだよ、水鏡先輩と風子ちゃんと柳ちゃんと薫くんと石島くんと陽炎さんの後にね、最下位で」

「僕がキライ」

「ギャウ!」


達からの言葉の攻撃が、棘がちくちくと烈火に突き刺さってく。そして最後の留めと言わんばかりにのフードからフォックスは飛び出すと烈火の顔に飛び乗り容赦なく鋭い爪で烈火の顔面を引っかいた。何となくが烈火に言われた言葉と、フォックス自身に言われた言葉を理解したらしい。まるでフォックスの行為は主人であるの変わりに鉄槌を食らわせているようで、懐くのを拒否しているようだ。すでに涙を流して謝罪を述べている辺り相当言葉の攻撃とフォックスの爪攻撃は痛いらしい。土門はまだ立ち直れないのか背に暗い影を背負って座り込んだままだ。相変わらず仲が良いのか悪いのか、そんな火影の様子を傍観しながら陽炎は笑みを浮かべる。同時に、火影メンバーも自然と笑みを浮かべた。そして目の前のエレベーターへと視線を向ける。


「そんじゃま、行きますか」

「おう」

「じゃあ俺ここー!」

「俺はここな」


風子が切り出せば烈火が強く頷き、小金井が右から二番目のエレベーターへと駆け寄ってく。土門は小金井の選択したエレベーターの左隣のエレベーターを選べば扉の前に立ち、陽炎は何も言わず一番右端の小金井の右隣のエレベーターの前に立つ。風子は土門の選んだエレベーターの左隣を一つ開けた、その左隣のエレベーターを選び、更に左隣には烈火が立っている。は一番左端のエレベーターの前に立てば、今まで外に出ていたフォックスが床を蹴っての腰あたりで一度足を付き、更に上へと飛び上がるとの肩へと飛び乗りフードの中へと身を隠す。の隣に誰かが立つ影が見える。顔を上げて隣を見上げれば、そこに水鏡が立っていた。


「さっきも言ったけどよ、絶対勝手に死ぬんじゃねぇぞ!!」


烈火の声が聞こえる。自然と皆の顔に浮かぶのは笑み。必ず柳を取り返して帰るのだ。最終決戦、森光蘭の所まであと目と鼻の先。は強く拳を握ると水鏡を見上げて声をかける。どうしても水鏡に伝えておきたいことがあった。


「水鏡先輩」

「どうした?」

「この戦いが終わったら、聞いて欲しいことがあるんです」


が笑みを浮かべて水鏡に告げれば、水鏡は暫し口を噤むと再びゆっくりと開きの返事を返す。フードの中に隠れていたフォックスは顔だけを出しての方を見れば、続いて水鏡の方を見、不思議そうに首を傾げた。


「わかった」


微笑みなんてものは水鏡の表情には浮かんでいなかったが、それでもその表情は以前では絶対に見ることが出来なかった穏やかで柔らかいもの。自然との口元が緩み、満面の幸せそうな笑みが浮かぶ。


「行くぜ!!火影!!!」


烈火の力強い声を合図に全員が一斉に一歩前に足を踏み出しエレベーターに乗り込む。同時に開いたエレベーターの自動ドア。全員がエレベーターに乗り込んだなら同時に扉が閉まり、エレベーターが作動する。機械音と共に上へ上へと上がっていく感覚、浮遊感。は深呼吸を一つすると一度目を伏せる。


「全部終わったら、もう一回言うんだ」


今度は勢いなんかではない、言い逃げもしない。たとえ返事が自分にとって悲しいものになっても今度はちゃんと自分の意思で自分のタイミングで水鏡に想いを告げる。そして逃げないで、水鏡の口から水鏡の言葉で返事を聞くのだ。


「やっぱり大好きな人だから」


大好きな人だから大好きな人の声で返事の言葉を聞きたい。けれど今はもう考えるのは止めにする。止まった浮遊感、開かれるエレベーターの扉、どうやら目的の階に着いたらしい。また考えるのは決着をつけてからにする。は開かれた扉の先へと歩き出した。今歩いている廊下の先に一つだけ少しばかり大きめの扉がある。その扉の向こうから気配を感じるあたり、敵はあの部屋の向こうにいるのだろう。


「……フォックス」


が声をかければフードから飛び出し肩に乗り移るフォックス。は優しくフォックスの頭を撫でればフォックスは尻尾を振り回しの頬を舐め、そして床へ飛び降りるとの足に体を摺り寄せる。片足をついては屈むとフォックスに一つの指示をした。


「中は危ないから、ここで待っててね」


が笑みを零してフォックスの頭を撫でながら言えば、フォックスは小さな声で一鳴きだけする。すると小さな足で駆け出したなら、近くの物陰にそっと身を潜めたのだ。本当に賢い子ギツネだとは痛感する。飼い始めれば躾をしないといけないと思っていたが、その必要も心配もなさそうだ。は扉の方へと視線を戻すと迷わずその扉を押し開ける。中に広がっていた部屋は大きく広く、そして決してお世辞でも綺麗とは言えないような場所だった。パイプ等が至る所を通り、どうもごつごつとした印象を与えている。は部屋に足を踏み入れ暫く歩いた所で、後ろから扉が閉まる音が聞こえた。刹那、自分に向けられる確かな殺意。


「!!」

「ギャッ!!」


とてつもない速さで迫ってきたものを体を横にずらして避ければ、その襲ってきたものをカウンターで相手の顎を蹴り上げる。小さな悲鳴を上げて倒れた体、地面に無防備に倒れた姿は以前目にしたことのある姿だった。は驚き目を見開いてその者の名を呟く。


「か……烏………?」


裏武闘殺陣、二回戦、麗(幻)戦で水鏡とタッグを組んで戦った相手の一人である飛斬羽使いの男、細身で気味の悪い雰囲気を気絶しながらも出している烏はあれから何も変わっていないようだ。そろりとは烏へと近寄る。意識のない烏は身動き一つしようとしないで、完全に気絶してしまっているようだ。暫く目覚める様子も無い。もしやこの階に居た敵とは彼のことなのだろうか、そうなるとかなりが選んだルートは簡単に攻略できるルートだったということになる。実際、烏程度の実力なら火影の者なら誰でも一撃で伸すことが出来るだろう。呆気なかったな、そう思いながらも一足先に森光蘭の元へと向かおうと前へと踏み出しただが、は全身に浴びせられる殺気に足を止めた。


「(な、に……誰かいる!?)」


恐ろしい程に強く重い殺気に冷や汗が流れる。震えそうになる体を意地と根性で抑えつけては周囲を警戒し、見渡した。誰も居ない、足元に転がっている烏以外は人の姿は無い。じっと目を凝らし周囲に目をやっていると己の真後ろから声が聞こえてきた。


「久しぶりだな。あの時より強くなってるじゃねぇか」

「!!その声……」

「なぁ、楽しませてくれよな?」

「っ!!」


真後ろ、耳元から聞こえてきた声。右耳にかかる吐息、肩に乗せられた手、の背筋を冷たいものが伝う。そして全ては動き出した。









「弱ぇなー、弱い弱い弱い。全然、楽しくないな。楽しめない」


声が聞こえる。声の主は確かに口角を三日月のように吊り上げて笑っていた。ただこの空間にだけに男の声が聞こえている。声は喉を鳴らして確かに笑っていた。声の主はくるりと後ろに振り返る。そこには仰向けに倒れる傷だらけで至る場所から出血をしたの姿があり、ケースにしまわれているはずの神慮伸刀が元のサイズで少し離れた場所に転がっていた。


「なぁ…、もう死んどく?」


声の主が不気味な程に笑みを浮かべて、意識の無いの体に近付いた。





















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