「喰え。我を喰え!!!天堂地獄吸収体!!!」


炎となった柳を見て、天堂地獄は吸収体に命を下した。体をくねらせ、大きく口を開けたなら勢いよく天道地獄へと向かっていく吸収体。それは喰うというよりも飲み込むかのよう。吸収体は天堂地獄本体を喰えば夜空に向かって真っ直ぐ伸びる。メキメキと音を立てながら小刻みに震える吸収体。突如吸収体の額から手が飛び出し、喰われたはずの天堂地獄の上半身がそこに現れた。対峙する天堂地獄と烈火の炎となった柳。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーっ!!人間!!火影!!炎も炎術士も全てだ!!!」


勢い良く烈火へと向かっていく天堂地獄。烈火は目を閉じ右手を上げれば柳も烈火と同じく目を閉じる。まるで祈るように手を握り、翼を休めるように体に纏わせる。そして目を開けると同時に翼と両手を大きく広げれば柳から放たれる炎の羽。羽は天堂地獄のみにならず四方八方と無差別に飛んでいき、や水鏡、風子、陽炎、土門、小金井、葵、蛭湖、この場にいる全員の身にも降りかかる。


「きゃっ…」

「わちゃちゃちゃちゃちゃ!!あっつ……くない。それどころか…」

「傷が治ってく……!治癒…?」

「癒しの炎…」

「柳ちゃんパワー…」


避ける間もなく己に降りかかる柳の炎。だが炎だというのに熱はなく、傷がどんどん癒えていく。の体中にあったすり傷も、痛みを訴えていた腹部の痛みも癒えていく。それは柳が持っていた治癒の力と同じ力だった。


「馬鹿め!!今の我に炎など無意味と何度…言えば…ああ!?」


天堂地獄の体が柳の炎に焼かれ砕けていく。余裕の表情を浮かべていた天堂地獄も己の身に起きている事態に気付いたなら表情を一変させた。


「燃える!!?壊れる!!?馬鹿な!!?不死の我が!!天堂地獄が!!?」

《あなたがその体を造るために奪ってきた人達の命を癒します。成仏する魂と共にあなたが奪った全ての力が消える!終わりです、天堂地獄!》


天堂地獄は悲鳴に近い絶叫を上げる。柳は真っ直ぐ天堂地獄を見据えると天堂地獄に向かって人差し指を差し、終わりを告げた。柳の炎で朽ちていく天堂地獄。残るは本体の上半身だけとなったところで天堂地獄に異変が起きる。


「イ…ヤだァ!!」


天堂地獄の顔が歪み崩れ、森光蘭の顔が生まれる。森光蘭の拒否する声。続いて森光蘭の顔の横から海魔の顔が生まれる。は森光蘭の顔を見ると何か思い出したように「あ、」と声を漏らす。隣に立っていた水鏡はの零した声が聞こえていたのか、の方へ振り向くと、は「ちょっと行ってきます!」と笑顔を浮かべてその場を離れ駆け出した。森光蘭と海魔は大きく口を開けて拒否の言葉を絶叫する。


「いやだぁああーーーっ!!」

「死ぬのは嫌だぁああぁああぁああ」

「いい年したオッサンが駄々こねてんじゃないっつの!!」


五月蠅いくらいに叫ぶ森光蘭と海魔に向かっては言葉をぶつけると、力一杯地面を蹴り韋駄天を発動する。瞬時に森光蘭の目の前へと姿を見せれば森光蘭と海魔の目がに向けられ恐怖に怯えた表情へと変化した。は構うことなく森光蘭だけに集中すると、突然目付き、表情、雰囲気をがらりと一変させ力一杯拳を握った。


「天誅ゥゥウウ!!」

「ギィヤァアァアア!!!」


は勢い良く腕を引き、森光蘭の顔面へと拳を鬼の形相で放った。少しばかり陥没する森光蘭の顔、はくるりと宙返りをして地面に華麗に着地したなら、殴った衝撃で少しばかりひりひりと痛む拳をぶらぶらと振りながら森光蘭に向かって言う。


「仮初だろーが、一時期だろーが、あんたに紅麗さんの”父親”だって名乗る資格も権利もないんだよ馬っ鹿!!」


封印の地の時から必ず森光蘭を一発は殴るという目的。普段喧嘩すらしないにとって人を殴るというのは己の拳にもダメージを負ってしまうものだが、目的を果たされた今ではその痛みは全く気にはならない。むしろ清々しい程に良い気分になれたのだった。森光蘭に向かって親指を下に向けて言葉を放つ。


「消えろ」


紅麗が森光蘭と海魔に向かって灼熱の炎を放つ。炎と煙が晴れた先には森光蘭と海魔の顔だけが埋め込まれたような、元の天堂地獄の姿である一つの目玉があった。烈火が天堂地獄に向かって地を蹴り飛び上がる。


「永遠の…殺戮……」

「永遠の…欲望……」


海魔と森光蘭の脳裏には今までの自分が走馬灯のように駆け巡っては消えていく。強く拳を握り後方に引いた烈火が、森光蘭と海魔の天堂地獄の目の前に現れた。


「うぁあぁああぁあぁぁあぁあぁあぁあぁああ」


海魔と森光蘭は恐怖に怯え絶叫を上げる。構わず振るわれる烈火の拳は手加減も容赦も躊躇いもなく天堂地獄へと放たれる。烈火の拳が天堂地獄を破壊する。引き千切られるようにして粉々に散っていく天堂地獄。そして天堂地獄は―――消滅した。


「倒した…」

「天堂を…!!」

「不死の怪物を…!!」

「でも…まってよ」

「柳ちゃんはどうなるんだよーーーっ!!」


静けさを取り戻した融合の間に小金井の悲痛な叫びが響き渡る。烈火の前に翼を広げて烈火を見る柳。見つめ合う烈火と柳の間に会話はない。刹那、それぞれが持つ魔導具に異変が起き始めた。


「?閻水…!?」

「え、え、え!?」


光を放ち始めた閻水、韋駄天、神慮伸刀、空神に水鏡とは驚きを隠せない。どうなっているのかがこの時点では誰も分からなかったのだ。ただ光を放つ魔導具を目に映す。


「姉さん…?おじいさん!!」


死んだ姉と師である巡狂座の姿でも見えたのか、水鏡がそう声を上げた瞬間、閻水の宝玉に罅が入り閻水が粉々に砕けた。それを横目では捉えながら己の魔導具を凝視する。


     、戦わせてくれてありがとう』

「緋水…?」


緋水の顔と声が聞こえたかと思えばケースに入れていた神慮伸刀が砕け散る。続けて韋駄天も砕け散ればは空神へと視線を向けた。空神の宝玉がきらりと光った途端、一筋の亀裂が入り、の目の前に本来の姿である獣の姿をした空神が現れる。


《よォ、

「ど、どどどどうなってんのこれ!?」

《これで終いってことだ、…お疲れさんとでも言っといてやるぜェ。俺が最初で最後の本当の意味で認めた主人…よくやったと思うぜェ》

「う、うん…?」

《楽しかったぜェ、嗚呼、楽しかったなァ…。色男と幸せになれよォ、捨てられないようになァ》

「縁起の悪いこと言うな!」


空神は鋭い爪の生えた前足を上げると柔らかい肉球のついた足での顔を押す。押された為には反射的に目を瞑れば、音を立てて空神の宝玉が砕けたのを合図に全てが砕けて消えていく。次にが目を開けた時には、すでにそこに空神の姿はなかった。


「魔導具が―――」

「砕けていく!これは…!?」

《火影が終わるのだ》


砕けてなくなってしまった魔導具を呆然と見ながら、はゆっくりと桜火の方へと振り返る。


《天堂地獄という邪なる欲望、野望が消えた時…火影に関わる全てのものが役目を終えこの世から消滅する。今…火影の歴史が終わる》


腕を組んで仁王立ちの桜火。は桜火の言葉を聞き、空神が言っていた”これで終い”が”火影の終わり”であることを理解する。


「イヤだっ…冗談じゃねえよ!!!」

烈火の悲痛な声には烈火に振り返る。烈火の二の腕にあった火竜の名が消えている。瞬時にの頭に柳の顔が浮かぶ。火影に関わるもの全てというならば、それは火竜も含まれるということ、烈火の炎となった柳も消えてしまうということだった。烈火は瞳に涙を浮かべながら強く離さぬよう柳の体を抱きしめる。


「消えるなよっ、消えんな姫!!!お前が消える事ねえだろ!!?」

《泣かないで……泣かないでよ……烈火くん…》


烈火の腕の中で泣きながら烈火に泣かないでと言う柳。烈火の二の腕に刻まれていた文字が次々と消えて行き、裂の文字まで全てが消える。柳の翼が吹き飛び、柳は苦しみに強く目を瞑る。光を放ち始める柳に必死に手を伸ばす烈火。消えかかりながら桜火が浮かべていた表情は優しい、まるで父親が子にむけるような温かいものだった。そして完全に裂の文字が消え、桜火の姿が消えた時、烈火の前には柳の姿があった。






















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