「ふえ……」


消えると思っていたというのに残った柳の姿。柳は思わず気の抜けた声を上げると突然くしゃみをする。薄着な格好のため、仕方が無いといえば仕方が無いのだが。烈火は軽く柳の頭を叩く。そして両手を人差し指を立てれば柳の口へと入れて左右に引っ張る。横に伸びる柳の口。


「いてて」

「炎じゃねえ………姫……姫だ!!!」


烈火が声を上げれば歓喜する火影。両手を握りガッツポーズを取った柳の両脇を持って、烈火は満面の笑顔を浮かべながら柳を抱き上げた。一斉に柳の元へと駆け出す火影。風子とは突っ込むように柳へと掛けていけば、隣に居た烈火を突き飛ばし柳へと飛びつく。


「うわぁあぁあーーーぁん!!!」

「柳ちゃぁあーーーーん!!!」


風子が柳の頭に腕を回して抱きつき、が柳の腰に腕を回して抱きつく。呆然と立っている柳はされるがまま。風子が涙ながら柳の顔に触れ、は強く柳の腰にしがみ付く。


「やわらかい!!スベスベ!あったかいぃ!!人肌!!炎じゃないよなっ?」

「うん」

「生きてるよねっ?!!」

「うん」

「良かった良かった良かった良かったよ柳ちゃぁああーーーん!!」

「うん」

「ずび…嬉し涙に嬉し鼻水が出る…!うあ、鼻水ついちゃった、ごめん!」

「おま、!なに姫に鼻水つけてんだよ!…ってギャーーッ!!

「フォックス!」


が鼻水を吸いながら柳に謝罪を述べると柳が答える前に復活した烈火がを怒鳴る。のだが、突然叫び出した烈火に皆が何事かと振り返った。よく見れば烈火の尻に鋭く尖った歯で噛み付いているフォックスの姿がある。これからは危険な戦いになると、黒塚のところに置いてきたフォックス。どうやって来たのかは不明だが此処までやって来てしまったらしい。がフォックスの名を呼べば烈火の尻からすぐさま離れ、満面の笑みを浮かべたフォックスは尻尾を千切れんばかりに振り回しての胸へと飛びついた。そしての頬を満足いくまで舐めるとの肩へと飛び乗る。再びは視線を柳へと向ける。すると柳は肺一杯に息を吸い込み、そして頭を下げると顔を上げた時には笑みを浮かべ、敬礼のポーズをとった。


「ごしんぱいかけましたっ!」


同じく敬礼のポーズを取る風子、土門と水鏡は腕同士をこつんと会わせ、は水鏡に抱きつく。小金井は涙と鼻水を流しながら手をあげて、陽炎か顔を両手で覆った。


「意識がハッキリしてるかテストです。これは何ですか?」

「土門くん」

「ブー!ゴリラでっす!にしても石島くん気持ち悪いよ、その顔は

「んだとーー!!」


柳の意識がはっきりしているかをテストする為に、は手招きして柳を呼び寄せる。土門がゴリラに見えるように顔を歪ませれば水鏡が土門を指して柳に問題を出す。即答して土門だと答えた柳にが不正解であることと本音を漏らせばすぐさま普段の土門の顔に戻り怒声を上げる土門。がそんな土門に笑い出せばつられたように柳が笑い、水鏡が笑って、結局怒っていた土門までもが笑い出す。


「雷覇―――音遠―――礼を言う」


凛とした声が聞こえは振り返る。いつも常につけていた不気味な仮面を外し地面に落とした紅麗が、今まで見せたことの無い穏やかな表情で振り返り音遠と雷覇に言葉をかけていた。


「今日までよく仕えてくれたな、麗は解散だ。然らば…!」


紅麗が宙に向かって手を伸ばす。すると空間がぐにゃりと歪み、渦の様なものが紅麗の目の前に現れる。渦は周囲の細かい石や瓦礫を吸い込んでいき、それに何より反応したのは陽炎だった。


「あれは……時空流離!!?何をするつもりなの、紅麗!!?」

「私の体に残された、火影の力で使う最後の秘術―――火影は消える。あなたのように不死にはならぬさ……やる事が残っていてね、私はあの時代へ還る。一人でな…」


雷覇と音遠に見送られ、紅麗は時空流離へと歩を進めていく。はそんな紅麗の背中を暫く見つめると駆け出した。


「紅麗ぃーーーっ!!!」


烈火が大声で紅麗の名を呼べば足を止めて後方に顔だけ振り返る紅麗。こうしてみれば、確かに烈火と紅麗は似ており、改めて義理であっても兄弟なのだと思い知らされる。


「あばよ…ア…ニキ…じゃねえ…!あの………」


烈火は照れたように言葉を紅麗にかけていたが、結局しっくりこなかったのか一度顔を伏せ、そして上げた時には笑みを浮かべて親指を立てた。紅麗は返事こそ返さなかったが口角は小さく吊りあげられている。再び時空流離へと歩き出した紅麗。皆が紅麗の背中を見送っていると、その手前に見覚えのある姿があり、驚き目を見開いた。


「バイバイ、みんな。俺…紅麗についてくよ!!一人じゃさびしいだろうから!」


片手を上げて笑顔を見せてそう告げた小金井。小金井は上げていた片手を下ろすと顔を下に向けて言葉を繋ぐ。


「すっげえ楽しかった!!これからもみんなと楽しくやりたかったけど……紅麗のトコロにいくよ!そこが俺の―――居場所なんだと思う!!」


そうはっきりと告げた小金井には迷いはない。涙する柳を烈火が宥め、土門は黙り込み、水鏡は変わらぬ表情、陽炎は切なげで、風子は驚きを隠せないでいる。


「みんな元気でーーーっ!!」


笑顔で皆に手をふり、紅麗の後を追って時空流離の中へと飛び込んでいった小金井。は時空流離の目の前で立ち止まると深く深く息を吸って、腹の底からの大きな声を出した。


「紅麗さーーーん!!薫くーーーん!!」


時空流離の向こうの方で紅麗と小金井が立ち止まりの方へと振り返る。その姿を確認したなら、は口角を吊り上げて笑みを浮かべると再び力一杯叫んだ。二人の耳に聞こえるように。


「次は!次はないと思うから、だから!!」


力一杯、明日は喉が枯れてしまいそうなぐらいの大声では叫ぶ。


「来世でまた会おうねーーー!!!」


両手を挙げて紅麗と小金井に向かって手を振る。距離がありすぎて二人の表情は見えないが二人にちゃんと言葉は届いたとには感じられた。紅麗は再び前へと向き直り歩き出し、小金井はの言葉に返事を返すかのように両手を大きく振れば紅麗の後を追いかける。暫くして小さくなっていき消えた時空流離の穴。残されたはどこか清々しい表情だった。





















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