|
無駄に高い天井は、何処まで伸びていき、其の頂点は遥か遠く首が痛くなる程だった。バステ監獄の南端に位置する円錐型の塔の様な牢。其れは端から見ても他と隔離された特別なものだった。四方八方を頑丈な煉瓦の敷き詰められ、ぽつりと一つ存在する鉄の扉には何十にも鎖を巻かれ、幾多の錠を施されており、牢の中の其の人物を逃そうとしない。決して届きそうに無い天井付近に取り付けられた鉄格子の取り付けられた小窓からは柔らかい風と、優しい日の光が降る。天候が悪い日には、此の小窓からは強い風や、冷たい雨が侵入し、堪ったものじゃないが、こうした天気の良い日には、まるで天から降り注ぐ様にして日の光が差し込むのだ。ほんの一筋、ほんの少しの光ではあるが、其れを目にする事が、此の身に浴びる事が、娯楽が一切無い此の牢生活の中では、唯一にして最大の贅沢でもあった。 「ナーガ」 壁に敷き詰められていた一つの煉瓦が音を立てて陥没する。代わりに其処から顔を覗かせた大蛇を、牢の隅で身を縮めていた大罪人は妙にはっきりとした声色で呼び掛けた。大蛇は蠢き、するすると穴の中から身を乗り出すと、床を這って大罪人の下へと向かう。 「…そう。メリオダスが」 長く細い舌を俊敏に動かす大蛇を、憂いで淀んだ瞳で見つめながら、大罪人は手首に取り付けられた枷を鳴らして手を伸ばす。伸びた指先が大蛇の頭部に触れると、まるで項垂れるように俯く大蛇。シュルシュルと音を立てて動く舌が、大蛇の嬉々とした感情を物語っているかのようだった。 「ナーガ」 呼びかければ大蛇は更に身を寄せる様に大罪人へと近寄る。其の身体に巻き付く様に、肌の上を、衣服の上を、大罪人を拘束する鎖の上を這った。 「私の、ナーガ」 大蛇の顔を頬擦りし、大罪人は瞼を降ろした。ほんの少し、大蛇は強く大罪人の体を締め付けるが、大罪人に恐怖も動揺の色は無い。ほっそりと痩せ細った手足は白く、大蛇の身体を、顔を、大罪人は優しく撫でる。色素の薄いシャンパンの長い髪を耳の高さでツインテールに結った牢に幽閉されている未だ幼い少女は、美しいエメラルドグリーンの瞳を濁らせて何度も何度も大蛇の名を呟いた。 |