一天を流星が十字に斬り裂く時
ブリタニアを至大の脅威が見舞う
それは古より定められし試練にして
光の導き手と
黒き血脈の
聖戦の始まりの兆しとならん
其れはブリタニアの古い詩の一節。偶然にも見えた一つの流星。其れは次第に数を増し、まるで十字に斬り裂く世に交差して幾多の星が流れた。其の光景が詩の一節にある事をどれだけの人々が知り、どの様な思いで流星を見上げていたのだろう。少なくとも、浴びる様に酒を飲み干し、腹一杯に食事を平らげ、始終騒ぎながら流星を眺め、眠り、夜を明かした五人と三匹は、久々のお祭り騒ぎにとても良い夜を過ごした。
「ここがエリザベスと俺達が出会った所。白夢の森でディアンヌと再会…」
「そんで今はダルマリーを東に出た山道だよな?プゴッ」
「目的は王都だろ?だったら南西の街道じゃねぇかよーー」
テーブルの上に地図を広げて今後向かう先を確認する。各自出逢った場所、辿って来た道程を復習しながら意見を出し合う。其の姿は、宛ら作戦会議とでも言ったかの様。
「うんにゃ。王国からは一旦離れる。ソルガレス砦に続いて監獄をぶっ潰したんだ。王国、聖騎士側は警戒を強めてるはずだ」
「今は目立つ行動を避けとくのが吉ってことだな。プゴッ」
「十分目立ってんだろーが」
現在、豚の帽子亭は移動中である。メリオダスが経営する酒屋はホークの母にあたるホークママの背にあり、地響きを鳴らしながらディアンヌと並び歩きながら歩行していた。
「本当にごめんなさい…。…私の所為で結局町に三日も足止めさせてしまって…」
「水くさいなー、エリザベスってば。それより体の方はもう平気なの?」
店内で話し込む三人とは反対に、酒屋の外で、足を宙に投げ出しながらゆっくりと流れていく景色を眺めるエリザベスは、ホークママの隣を歩く巨人族のディアンヌに話し掛ける。
「ありがとう、ディアンヌ…もう平気です」
エリザベスの身体に巻き付いていた包帯はすっかり無くなっており、多少の傷の痕こそ有るものの、頬の傷にガーゼを当てがっている他に目立った外傷は無い。
「ホークママもずっとお留守番させてしまってごめんなさい…一人ぼっちで寂しかったでしょう?」
真下のホークママに向かって謝罪の言葉を口にする。本来直ぐにでも旅立つ筈が、エリザベスの怪我の事があり、大事をとって出発を遅らせたのである。其の負い目もあってのエリザベスの謝罪だった。
「ブゴブゴブゴオ…」
「“気にしてない”ってさー!」
返って来た鳴き声は人語では無い為、何を言っているのかさっぱり分からないが、其れをディアンヌが明るい表情で訳して言う。しかし、勢い良く扉から飛び出して来たホークによって、ディアンヌの通訳は出鱈目だった事が発覚するのだ。
「勝手に訳すなっ!!!“今度から長引きそうな時は早めに言ってくれ”って言ってんだ!!」
ホークの怒声にエリザベスは肩をびくりと跳ねさせ、ディアンヌは舌を出して握った拳でコツンと己の頭を叩く。ただ単に可愛らしいだけの謝罪は、全くもって詫びている様子は無いのだが、ホークは気が済んだのか文句を零しながらも声を荒げる事は止めるのだ。
「ねぇ、ディアンヌ」
「んー?なあに?」
仕切り直しと言わんばかりに、エリザベスはディアンヌを呼び掛ける。ディアンヌは首を僅かに傾げてエリザベスを見ると、エリザベスはずっと気掛かりだった事を問い掛けるのだ。
「様はどういった方なんですか?」
「?」
「俺も気になるな。アイツ、全然喋れんねーから余計に謎だぜ」
突然と言えば突然の問い掛けに、ディアンヌはの名を口にする。確かに、昔からと関わりのあるメリオダスやバン、ディアンヌからすれば何の疑問も抱かぬものではあるが、初対面のエリザベスからすれば気になる事であっただろう。エリザベスとディアンヌの話題に興味を抱いたのか、ホークも豚の帽子亭に戻るのを止めてエリザベスの隣までやって来て、其の話題に加わる様子を見せた。
「この前も言ったけどな、命狙われてるってのに逃げる事もしねぇで取っ捕まって。そもそも、アイツは“七つの大罪”じゃねぇのに、何で10年前の王国転覆事件の時に一緒に居たんだよ。あの歳じゃ10年前なんて赤子同然だぜ!」
バンが幽閉されていた経緯を聞いた時、同じくが何故幽閉されたのかを聞いたのだ。何でも、王国転覆事件の時、其の場から一歩も動かず、無抵抗で簡単に拘束されたのだと言う。殺されても可笑しくない状況で、何故そうもあっさりと逃走を諦めたのか、ホークには全く理解が出来ないものだった。全面的に疑っている訳では無いのだが。外見から推測する年齢から見ても、其の場に居合わせたという事実すら疑わしいものなのだ。
「は僕達の仲間だよ」
「では、様も“七つの大罪”…?」
「馬鹿言え!なんて名前の手配書なんか無かったじゃねーか!」
「直ぐに捕まったから作る必要が無かったんじゃないの?」
「成る程な!」
豚の帽子亭にもある七つの大罪の手配書にはメリオダスやディアンヌ、バンの手配書も貼られている。しかし、其処にはのものはなく、直様ホークはが七つの大罪では無い事を否定したのだが、ディアンヌの最もな反論に、これまたあっさりと直様納得するのである。
「元々、はあんまり“七つの大罪”としてあんまり知られてないし」
「それは…どうしてですか?」
「一緒に任務に出たりはしてたんだけど、一応形式的には僕等の監察?保護下にあったんだ」
「何だそれ。監視してなきゃならねぇ程、ヤバい奴には見えねぇけどな」
「僕も詳しくはわからない…。僕が知ってるのはの罪の名前だけ」
「罪…?」
エリザベスがディアンヌを見上げ、ホークは興味深そうにディアンヌに続きを早く言えと急かす。ディアンヌは一度、高く結ったツインテールの髪を後ろに払うと、落ち着いた声色で続きを語った。
「僕は嫉妬、団長は憤怒、バンは強欲…他にも怠惰、色欲、暴食、傲慢の罪を背負った仲間が居るんだけどね。は傲慢と似た虚飾と、怠惰と似た憂鬱の罪を背負ってるんだ」
七つの大罪は、七人の大罪を犯した罪人から編成されている。其の背負った罪に統一性は無く、皆其々が異なる罪を背負っていた。
「だから、の背負う罪は“
虚飾と憂鬱の罪
”」
エリザベスとホークは、明らかにされた新たな事実に息を飲む。知りもしなかった出来事は、こうしてディアンヌから聞かされて、また一つの事を知るのだ。
「でも、には僕等みたいな印は無いんだ。代わりに元々にあった刺青がの印にはなったみたいだけど」
「そうだったの…」
「うん。ちなみに10年のと、今のに見た目の変化は無いよ」
「変化が無いってどういうことだよ。老けねぇのか?」
しんみりと、やや俯きながらエリザベスが呟けば、ついでにとディアンヌがホークの疑問に答える様にの事実をまた一つ口にする。ホークはつぶらな瞳をディアンヌへと向ければ、ディアンヌははっきりと告げるのだ。
「は不老不死の魔女だから」
「不老不死の魔女!?だから蛇と猫飼ってたのか!」
「そこ?」
変な所で納得するホークにディアンヌは呆れ顔で突っ込むが、ホークの耳には届いていないらしい。すると、ディアンヌはまるで思い出したかの様に「あ!」と声を上げると、上半身を屈めて顔を近づけながらホークに言うのだ。
「そうだよ!ホーク、あんまりをいじめたらダメだよ!昔、よくバンがを遊びでからかってたんだけど、其れで何回もチャーリーに噛み付かれたり引っ掻かれたり、ナーガに丸呑みされてたんだからね!」
「まる…!?」
「おおおお俺は食糧なんかじゃねぇぞ!?」
「わかってるよ!でも、この前みたいな事をしたら、其れこそバンの二の舞だからね。僕が先に忠告してあげてるんだよ!」
腰に手を当て、ふんっと鼻を鳴らすディアンヌは横目にホークの様子を窺う。脅している訳ではなく、実際事実の事なのであるが、一度ナーガに締め上げられたホークからすれば、より現実味を帯びて聞こえただろう。実際、ディアンヌが目にしたのは真っ青になり、身体をガタガタと震わせるホークがエリザベスに泣き付いている所だった。
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